「海の危機」に立ち向かう42歳海苔漁師の生き様 毎年100万円使って開く「海と海苔の勉強会」
「日本の海の状態は、年々悪くなっています。皆さん、100年も200年も生きられないでしょう。でも、俺は生まれ変わったらまた海苔漁師をしたいんです。今こういう課題があるから、みんなも一緒に立ち向かいましょう」
会場はシーンとなり、相澤さんは「やっちまったかな」と思いつつ、壇上から降りた。すると、たくさんの人から名刺交換を求められた。
そのなかのひとりが、後にミシュラン東京で星付きになるおすし屋さんを紹介してくれた。今度は、そのすし屋の大将が北海道から大阪、岡山など全国に散らばる自分の仲間に相澤さんの存在を広めてくれた。相澤さんはそのひとりひとりに、直筆の手紙を添えて海苔を送った。そのネットワークは徐々に広がり、相澤さんの海苔はますます手に入らない海苔になっていった。
無類の負けず嫌いが始めた「天に貯金」
相澤さんには、胸に刻んでいる言葉がある。それは、相澤さんが海苔を納めている県外のお弁当屋さんの社長から聞いた言葉だ。
なんのノウハウもないまま創業したため、当初はお弁当がまったく売れなかった。先行きに不安を感じていたある日、道端で困っているおばあさんに出会い、交番まで連れて行ってあげた。
警察官に「あなたはなにをしてる人?」と聞かれて、「弁当屋を始めたところです」と答えたら、「じゃあ、今度持ってきて」と言われて、その警察署で弁当を販売できるようになった。警察官は転勤する。転勤先でも声をかけてもらうようになり、やがて県内のすべての警察署で弁当を売るようになった。
その社長が大切にしている言葉が、「天に貯金」。この話を聞いたとき、相澤さんは「負けてられないな」と思ったそうだ。そう、生まれながらの負けず嫌いは今、誰かに勝つ、負けるではなく、どれだけ「天に貯金」できるか、自分のなかで競っているのだ。
「ものづくりと伝える行動って、俺には両立できないんです。もっと海苔をおいしくするためにどうしたらいいかって、いつも海にいてつねに海苔のことを考えていないと閃かないんですよ。本当はね、俺だってこの人生を海苔作りに懸けたい。でもやっぱりこうやって時代の課題が浮き彫りになったときに、無視できないんだよ。生まれ変わったら海苔漁師としてもう1回、真剣に海苔と向き合いたいから、今の人生は子どもたちの未来を守るためになにができるか、みんなに伝える役目を果たします」
相澤さんはこのインタビューで何度も「生まれ変わったら」と言った。取材の最後に「生まれ変われると信じてるんですか?」と聞いたら、「そう思わないと、やりきれないから」と笑った。
もちろん、相澤さんは海苔作りを諦めていない。毎年、最高の海苔を作るために海に出る。相澤さんの海苔を待っている人たちのために、4月までは毎日が真剣勝負だ。そして仕事がひと段落する春になったら、海苔を持って旅に出る。自分の言葉が誰かの胸に届き、その人が海に想いを馳せて行動を変えてくれることを願って。
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