有馬温泉を復活させた「和室+ベッド」誕生の軌跡 法律の壁に阻まれ、1990年代にようやく始動

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一方で、食事中や食事後に布団を敷くという業務も存在した。だが、泊食分離をするにもかかわらず、忙しい食事提供の時間帯に布団を敷くだけの係を用意するのか? 無駄な労働力にならないか? 「ベッドにしたらどうだろうかと思いついた」、そう金井さんは振り返る。

「阪神淡路大震災の翌年から、僕はホテルの専門学校で定期的にお話をする機会があった。若い世代の生徒さんたちに、布団で寝ているか、ベッドで寝ているか聞いたところ、ベッドで寝ている人はすっと手を上げるんだけど、布団で寝ている人はおずおずと手を上げるんですね。当時はベッドで寝ることにあこがれを持っている若い世代が多かったものですから、和室にベッドを配置したら、より宿の個性化になると思った」

だとしてもだ。「和室にベッド」というアイデアは、もっと早くに生まれていても不思議ではない。なぜ1990年代の中ごろまで一般化していなかったのか。

「旅館・ホテル営業、簡易宿所営業および下宿営業を行うための旅館業法という法律があります。現在は、法改正によって、ホテル営業および旅館営業の営業種別が旅館・ホテル営業に統合されましたが、当時の旅館業法では、10室以上の客室を備えている宿泊施設をホテル、5室以上の客室を備えている宿泊施設を旅館と定義付けていた。それに加えて、ホテルにはホテルの要領が、旅館には旅館の要領が定められていた」

連れ込み宿を規制するための法律

この改正前の旅館業法によって、客室の「和」と「洋」は交わることのない平行線になっていたという。その一例を挙げると、ホテルの洋室の場合、

“洋室の寝具は、洋式のものであり、その他次に掲げるところによること”(例:寝台は幅員0.85メートル、長さ1.95メートル以上の広さを有すること、など)

といった細かい規定があり、旅館の和室には、

“適当な位置に寝具を収納する押入れ又はこれに類する保管設備を設けること”(和室には、布団をしまう押入れを備える必要がある)

などの決まりがあった。

「旅館業法は、戦後に施行された法律です(1948年7月15日施行)。その当時は、連れ込み旅館や駅前旅館……今でいうラブホテルのような旅館や宿も存在していて、押入れのスペースを潰して部屋を増やすという業者もいたと聞きます。明確な決まりを作り、遵守できないなら営業は許可しない。規制するために、細かい要領が定められたんですね」

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