有馬温泉を復活させた「和室+ベッド」誕生の軌跡 法律の壁に阻まれ、1990年代にようやく始動
そして、阪神淡路大震災が発生ーー。有馬温泉でも、倒産や廃業する宿泊施設が出始める。先の192万人から102万人という数字を見ても一目瞭然だろう。
「廃業した旅館の一つに『萱の坊(かやのぼう)』という宿泊施設がありました。我々は『御所坊』とは異なる、個性的な宿を作ろうと借り受け再建に踏み切った」
「御所坊」は、文豪・谷崎潤一郎が頻繁に利用した(小説『猫と庄造と二人のおんな』に登場する)、いわゆる上宿である。木造3階建ての外観や内観からは格調の高さが感じられる。
「個人客へシフトしていく時代にもかかわらず、一人で泊まると非常に割高になってしまう。また、エレベーターもないため高齢者が利用しづらいというデメリットもありました。そうした『御所坊』ではカバーできないお客さんの受け皿として、『萱の坊』を再利用した、個人客でも利用しやすい宿『ホテル花小宿』をオープンさせようと考えた」
また、“泊食分離”という点にも触れておく必要がある。
旅館は、仲居や料理人といったスタッフ、つまり宿泊と食事にかかわる人員を雇用している。団体客を相手にしていた昭和の時代ともなれば、相当な数のスタッフを抱えていたわけだが、これは「一泊二食付き」がスタンダードだったからこそだ。現在は、「素泊まり」や「朝食のみ」といったプランが当たり前のように存在するが、当時はそうではない。
「泊食分離は、ホテルのような料金体制でしたが、旅館では難しかった背景があります。それは食事を提供するための調理師や客室係を雇用していたからです。そのため多くの旅館は、大胆な改革に踏み切れなかった」
だが、個人客が増加しているという背景に鑑みれば、宿泊プランの選択肢が増える泊食分離は欠かせない。金井さんは、有馬温泉の旅館としては初となる泊食分離の導入を決意する。
「それまでの旅館は、料理を部屋まで運ぶ係や、客室係が必要だった。ところが泊食分離ができれば、その必要がなくなります。不況の煽りを受けて、有馬温泉は慢性的な人手不足という問題を抱えていましたが、泊食分離をすれば少数のスタッフでも回すことができる。折りしも、『ホテル花小宿』は小さな宿を目指していた」
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