幹部直撃!アリババ「独身の日」取引額非公表の訳 中国人消費者の「欲しいもの」が変化している

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アリババのライバルである中国EC2位のJD.com(京東集団)も今セールのGMVを発表しておらず、「行きすぎた資本主義」「IT企業への富の集中」に厳しい目を向ける中国政府への配慮が理由の一つだろう。

劉氏はGMVの発表をやめたことについて、「中国市場が成熟段階に入り、消費の規模ではなく質を追求する時代になったことが背景にある」と述べ、今後は消費の質と体験、出店するブランドの経営効率の向上に注力する方針を示した。

EC企業間の競争が激しくなるにつれて、各プラットフォームのキャンペーンが複雑化し、消費者にとってわかりにくくなってしまったという反省もあるという。

劉氏は方針転換の理由として、コロナ禍以降のECを巡る環境の激変も挙げた。世界のインバウンド消費の主役だった中国人はゼロコロナ政策で3年近く海外旅行に出られず、今年に入ると中国での感染拡大によって日々の行動もたびたび制限されるようになった。

「ECを支える物流が影響を受けており、アリババは配送体制の強化とサプライヤーの支援を重要な課題と捉え、注力している。また、商品を手に取って見たり試したりすることが難しいため、特徴やストーリーを消費者に伝えられるようAIやVR/ARなど新しい技術の導入を進めている」(劉氏)

劉氏はスマホでアリババの新技術が搭載されたサービスを見せてくれた(撮影:尾形文繁)

中国人の欲しい物が変化

中国の2022年1~9月のGDP成長率(実質)は3.0%の低水準に沈む。11月15日に発表された10月の社会消費品小売総額(小売売上高)は前年同月比0.5%減り、5カ月ぶりのマイナスとなった。中国経済の減速と、アリババが独身の日セールのGMVの発表をやめたタイミングが重なり、「中国消費の急成長時代の終焉」を指摘する声もある。

劉氏は、「たしかに貯蓄への関心が高まっているし、小売売上高の伸びが鈍化しているなど、消費の総量の成長に以前ほどの勢いはない。ただ、『物を買わなくなっている』のではなく『欲しい物が変化している』と考えている」と語り、「たとえば出生数の減少で粉ミルク、紙おむつのような必需品は伸びが緩やかになっているが、消費のアップグレードが進み、乳幼児向けのヘルスケア用品は市場が拡大している」と例を挙げて説明した。

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