「夢追い型の専門学校」から見える進路格差の悲惨 データで見る「夢」は就職に結びつかない現実

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その一方、「服飾・家政その他」が53.5%、「演劇・映画」が51.9%、「外国語」が39.5%、「音楽」が38.1%で、関連分野への就職率も高くはない。

この10年後の2015年の状況は、文部科学省の「これからの専修学校教育の振興のあり方検討会議」の第9回の参考資料の中に示されている。これを見ると、この年の専門学校全体の就職率は80.8%であった。

同資料では専修学校全体の分野別就職率も明らかにされている。それによれば「教育・社会福祉関係」が87.2%、「衛生関係」86.1%、「医療関係」85.8%、「工業関係」80.1%となっている。低いほうは「文化・教養関係」41.6%、「服飾・家政関係」59.6%である。

専修学校全体の統計ではあるが、専修学校卒業生数のうち専門課程が約84%を占めているので、全体の傾向が推測できる。

アニメ・ゲーム分野に進んだ専門学校生の就職は…

このような動向を見て、専門学校を就職面で分類したのが、現在、滋慶教育科学研究所職業人教育研究センター長の志田秀史氏である。同氏は2017年の博士論文の中で、就職状況によって専門学校の分野を3つに分類する試みを行っている。

それは、1. 就職型(工業、商業事務、医療、教育・社会福祉、スポーツ、食、美容、農業・バイオスフェア(動物等)分野)、2. デビュー型(パフォーマンス(俳優、ミュージシャン、ダンサー、漫才師等)分野)、3. 就職・デビュー折衷型(コミュニケーションアーツ(アニメ、ゲーム、デザイン)分野)の3つである。

卒業後、すぐに正社員または契約社員として専攻した分野にほぼ全員が就職する分野が「就職型」である。「デビュー型」は正社員もしくは契約社員としてほぼ全員が就職することが困難な分野であり、「就職・デビュー折衷型」は「デビュー型」よりも雇用契約は成立しやすいが、それは見習いやアシスタント契約で独立前の雇用と考えられる就職の仕方である。

志田氏の分類は、先行論文・調査資料での就職率の傾向の理由付けとして説得力がある。

僅少な研究ではあるが、各分野での就職率の差は以前から大きく、また、就職に関する慣例も異なることがわかる。そして、学力が低い層の高校生が選択する傾向が強い音楽やアニメ・ゲーム等の分野には独自の慣例があり、また、就職率も高くないと想像できる。

自分の「好き」を重視してこれらの分野を選んだ高校生が、将来長きにわたってその分野に関連する仕事に従事できる可能性、経済的に十分に自立できる可能性は残念ながら高くないと推測せざるを得ない。

そもそも、アニメ・ゲーム業界は、有名なアニメ監督や人気のゲームクリエイター、大手ゲーム会社正社員などの年収は高いが、アニメやゲーム制作の実務に関わる人の多くは収入が低いという格差でも知られている。 

つまり、学力の低い層からの専門学校進学は、その分野に関する先天的な才能に恵まれている場合を除いて、将来の格差解消には結びつき難いといって間違いないだろう。

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