アメリカ株が波乱の中でも年内は上昇と読む理由 市場は「金利騒ぎ」から徐々に脱却の方向へ

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そもそも、どこが底か、どこが天井かは、渦中では極めてわかりにくい。時間が経って振り返ると、底と天井が事後的に確認できるにすぎまい。

現時点では、景気悪化を示す経済データが出ると、アメリカの株式市場は金利先高観が薄らいだとして好感することが多い。だが来年に入ると、景気悪化を示すデータは業績の悪化を示すとして、逆に株式市場が悲観するようになると見込む。同じ動きの経済データに対して、好材料との理解が悪材料との解釈にどこかでドロンと化けるわけだが、その「どこか」がどこなのかも事後的にしかわかるまい。

「天底荒れる」という相場格言があるが、その名のとおり、天井でも底でも投資家の強弱感が入り混じり、結果的に短期的に不安定な天井や底の形成になると予想する。日本株もアメリカの株価動向の影響が大きいため、「年内上昇、来年に入って下落」と見込んでいる。

天底の動きが荒くなるのも同様だろう。アメリカなどの債券相場の転機も、荒れ模様になると懸念する。

「逆イールド」から見た景気悪化と株価下落とは?

長短金利は、通常は長期金利のほうが高いが、それが逆転する(逆イールドになる)場合、景気の悪化などを示唆しているといわれる。債券の投資家が、この先ずっと景気が悪化して金利水準が低下していくと考えれば、より強く未来の金利の想定を反映する長期金利のほうが低くなるからだ。

以前、当コラムで解説したことがあるが、アメリカの国債利回りで10年債と2年債の金利が逆転し始めた時点を2000年以降で見ると、2000年2月、2006年6月(当時2度目の本格的な逆転開始局面)、2019年8月、2022年7月が挙げられる。

こうした長短逆転より遅れて、株価(S&P500種指数)の山(株価下落局面の入り口)と景気の山(景気後退期の入り口)が到来した。その時間差は、長短逆転と株価の山の間が最短で6カ月、最長で1年4カ月だった。景気の山との差は、それぞれ6カ月と1年6カ月だった。

これを直近の長短逆転開始時点である2022年7月に当てはめると、株価の山が2023年1月から11月のどこか、景気の山が2023年1月から2024年1月のどこかで訪れることになる。あくまでも過去のパターンの当てはめにすぎないが、この点からも「アメリカの景気後退や株価の本格的な下落は、すぐではなく来年」と考えられる。

なお、8日はアメリカの中間選挙(議会選挙)で、関心を持つ方も多いだろう。今のところ上院でどちらの党が過半数を握るかは不透明で、下院は共和党優位とされている。すると、大統領府と少なくとも議会下院の「ねじれ」が生じることになりそうだ。

ただ、市場への影響は限定的だろう。ねじれの発生は、すでに世論調査などにより想定されている。また、ねじれによる弊害は政府が推し進めたい法案が議会で審議難航することだが、これまでも上院では両党の議席が同数で、与党・民主党から1人でも「造反者」が出れば、大型経済政策も含め、法案は可決に手間取った。つまり、中間選挙前から遅滞していた法案審議が選挙後も遅滞するということであって、驚くような事態の悪化が生じるわけでもない。

(当記事は会社四季報オンラインにも掲載しています)

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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