収束せぬウクライナ「停戦」実現するただ1つの方法 「ロシアを打ち負かせ」の視点では情勢を見誤る

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――「思わぬこと」と言いますと?

キーウでの軍事作戦縮小を発表し、実際にロシア軍は撤退を始めた直後、ウクライナ軍が戻ってきます。キーウ近郊のブチャにも、ロシア軍撤収の3日後、ウクライナ軍が戻ってきます。そこからロシア軍によるウクライナ市民の虐殺が行われていたという情報が流れ始めました。

皆さん、覚えているでしょうか。最初は4月2日、キーウ周辺のプチャという街の市長が、プチャだけで280人の遺体を埋葬したと発表したことが発端です。14歳の女の子、後ろ手に縛られた男性……。多くの遺体が路上に放置されていたというニュースはロイター通信などによって瞬く間に世界へ発信されました。

ゼレンスキーは「ジェノサイドだ」と非難。バイデンは「プーチンは戦争犯罪人だ」と述べ、対ロ制裁を追加実施します。

これに対し、ロシア外相は「30日にロシア軍がプチャを離れた後、地元市長は3日間テレビに出演していたが、その際にロシア軍の撤収は歓迎しつつも虐殺については一言も発言していない」などと反論しましたが、現段階では正確なことはわかりません。いずれにしろ、この問題が浮上したことで、停戦は一気に遠のきました。

ウクライナ戦争と太平洋戦争の開戦は似ている

――ところで、ウクライナ戦争の開戦に至る経緯は、かつての太平洋戦争に至る日本の経緯と似ている、と東郷さんは新著に書かれています。どういうことでしょうか。

太平洋戦争は、中国の権益をめぐる日本とアメリカの激突が基本でしたが、交渉の最後の局面で日本側は甲案(中国からの撤兵)と乙案(南部仏印から撤兵しアメリカは石油輸出を再開)を用意して交渉しました。

東郷和彦氏の新著
東郷氏の新著『プーチンVS.バイデン ウクライナ戦争の危機 手遅れになる前に』(K&Kプレス、写真は筆者撮影)

しかし、最後には全要求を網羅したハルノートを日本が受け取ることになり、日本は開戦を決意します。

ウクライナではどうだったでしょうか。戦争が始まる前、2021年初頭にウクライナを包囲していくプーチンに対し、アメリカはその危険を一年中、宣伝していました。

ところが、ブリンケン国務長官は年末の緊張が高まるギリギリのアメリカとロシアの交渉で、「ウクライナの加盟の権利はNATO条約で保障されており、奪うことはできない」と姿勢を表明しました。ハルノートが日本に与えたインパクトと同様のショックをプーチンに与えたと言えるのではないでしょうか。

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