収束せぬウクライナ「停戦」実現するただ1つの方法 「ロシアを打ち負かせ」の視点では情勢を見誤る

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1990年の東西ドイツ統一の際、アメリカのベーカー国務長官は「1インチたりとも」NATOを東方拡大させないと述べ、ゴルバチョフ大統領も東側の軍事同盟・ワルシャワ条約機構を解体しました。

東郷和彦氏
東郷和彦(とうごう・かずひこ)/1945年生まれ。1968年に東京大学教養学部を卒業後、外務省入省。条約局長、欧亜局長、駐オランダ大使などを歴任。いわゆる“ロシアン・スクール”の一員として北方領土問題などの対ロ外交に尽くした。2002年に退官後、オランダのライデン大学、アメリカのプリンストン大学などで教鞭を執る。2009年、ライデン大学では博士号。2010~2020年、京都産業大学教授、世界問題研究所長。現在は静岡県立大学グローバル地域センター客員教授。『返還交渉 沖縄・北方領土の「光と影」』(PHP新書)、『ロシアと日本』(東京大学出版会)など著書多数(写真:尾形文繁)

ところが、ロシアの期待に反して、ソ連の支配を脱した東欧諸国はNATOの存続を主張し、自らもNATOに加盟します。同時に、アメリカとロシアの粘り強い交渉により、1997年にNATO・ロシア基本議定書が結ばれ、双方は「互いを敵と見なさない」という宣言を発した。

しかし、NATOの東方拡大は止まらず、2008年には旧ソ連構成国であり、ロシアと国境を接するウクライナとグルジア(現・ジョージア)をNATOに原則加盟させることが決まってしまいます。

モンゴル、ナポレオン、ヒトラーから侵略された歴史を持つロシアには、かねて「被包囲者のメンタリティー」が根付いています。ロシアの視点に立てば、とくにウクライナのNATO参加により、ロシアの安全が脅かされていくという意識は、決定的脅威となります。国の再発展と祖国防衛を最優先するプーチンにすれば、ウクライナのNATO加盟は、決して受け入れられない脅威でしかなかったはずです。

プーチンがウクライナに求める絶対要求事項

――その後は?

よく知られているように、ウクライナ南東部やクリミア半島にはロシア系住民が多数暮らしており、ロシア語は日常的に使われています。彼らが「ロシア系ウクライナ人」として安全かつ平和に暮らすことは、プーチンがウクライナに求めるもう1つの絶対要求事項です。

2014年、ウクライナでは親ロ派政権が「マイダン革命」で倒されましたが、危機を感じたプーチンは、ロシア系ウクライナ人が最も多く住むクリミアを国民投票という形でロシア領に併合します。その後に誕生したポロシェンコ政権は、クリミアに次いでロシア系ウクライナ人が多く住むドンバス地方(ドネツク、ルハンスク両州)におけるロシア系ウクライナ人の保護を、2015年2月に「ミンスクⅡ」という合意によって担保する約束をしました。ここでいったんウクライナ問題は小康状態に入りました。

今回のウクライナ戦争は、こうした冷戦後の流れの中にあります。そこには、ロシアにはロシアなりの理屈があるわけです。事態が急変したのは、ウクライナにゼレンスキー大統領が、アメリカにバイデン大統領が現れた2021年1月以降です。もちろん、だからといって、ロシア軍の侵攻を正当化することにはなりません。

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