会社員の副業、年「300万円以下」でも節税できるか 帳簿をそろえれば国税当局も認めるというが…

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①事業が赤字でも他の所得(給与など)と損益通算ができない

給与所得と事業所得がある場合、事業所得が赤字なら給与所得と相殺(損益通算)し、所得総額を減らすことができる。だが雑所得だと、赤字であっても、他の所得との損益通算ができない。

②赤字損失の3年間繰り越し控除が使えない

青色申告をしている場合、①の損益通算後も赤字が残れば、赤字を3年間繰り越し、翌年以降の所得と損益通算ができる。だが雑所得だと、これができない。

③青色申告特別控除が使えない

事業所得の申告なら、青色申告特別控除として、所得から10万円、55万円、もしくは65万円を差し引くことができる。だが雑所得だと、この控除が使えないので、その分所得が増える。

④青色事業専従者給与の適用がない

青色申告で「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出すれば、従業員家族に支払った給与を、すべて経費とすることができる。だが雑所得だと、これができない。

⑤30万円未満の一括償却資産の特例がない

青色申告をしている個人事業者は、30万円未満の少額の減価償却資産を、一度に損金処理することも可能。だが、雑所得だと、この制度の適用がない。

背景には”副業節税”が横行している実態も

つまり、雑所得になると、経費で落とせるのは「総収入金額-必要経費」のみで、節税できる範囲がかなり限定されるのだ。

今回、国税庁が通達を改正しようとした背景には、副業を利用した”不当な節税”が横行していることが挙げられる。例えば、本業の給与収入がかなりあるため、副業で赤字を出して事業所得で申告し、給与所得との損益通算で還付を狙うといった節税手法である。

国税当局はこれまで一部の業種を除けば、本人が事業所得で申告すればほぼ事業所得と取り扱ってきた。が、副業を利用した節税が横行してきたことから、主たる所得でないものは、年間300万円以下を基準に雑所得にすると、当初は決めたはずだった。

この根拠は、2010年度税制改正による所得税法(232条)で、前々年の収入金額300万円以下の小規模事業者に関しては、取引に関する書類の保存を求めない、とされたことに起因する。

従来の流れからすると、国税庁の意見募集は、「とりあえず納税者から意見を聞いた」程度で、内容が見直されるようなことはほぼなかった。それが今回は通常の70倍近い意見が寄せられたことから、納税者からの意見を無視できないと判断したと推察される。

とはいえ、事業所得と認める条件として、新たに「帳簿書類の保存」というハードルを設定した。一口に帳簿と言っても、仕訳帳から総勘定元帳、現金出納帳などがあり、書類といっても、損益計算書から貸借対照表、棚卸表をはじめ、さまざまな種類がある。

次ページ帳簿の7年保存は実務的に厳しい
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