弁護士ドットコム元榮氏「電子契約を根付かせる」 参院議員から経営復帰して気付いた自分の使命

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――弁護士のワークスタイルも多様化していますね。そのことにも関連しますが、いま政府が進めている「司法のDX」については、どう見ていますか。

民事裁判手続きのIT化がいよいよスタートするが、これは2000年代に法曹人口の増加を図った司法制度改革以来の大きな変革といえるだろう。オンラインで訴状の提出ができるe-filingや、ウェブ会議システムを利用した口頭弁論、裁判書面のデジタルアーカイブ化など、「紙とファクスと電話と押印」が当たり前だった裁判の現場で、DXが大きく前進する。

弁護士というのは移動時間が多く、地方の裁判所に期日出頭すれば、それだけで半日仕事になってしまう。口頭弁論のオンライン化によって期日出頭が大幅削減されることで、頭脳労働により注力できるようになる。

もとえ・たいちろう/1975年生まれ。1998年慶應義塾大学法学部卒業。2001年弁護士登録。2005年に独立開業。同年にオーセンスグループ(現:弁護士ドットコム)創業。2016年7月参議院議員選挙に当選、2017年6月会長就任。2020年9月財務大臣政務官に就任、会長退任。2021年10月政務官を退任、同年12月より会長復帰、2022年6月より現職復帰(撮影:尾形文繁)

――司法のDXではAIの活用も議論されていますが、「AIが弁護士の仕事を奪う」といった脅威論もありますね。

弁護士業務に関していえば、そのような脅威論は当たらない。

弁護士業務と聞くと、ロジカルに法令や判例を解釈するイメージを持たれるが、実は依頼者から話を引き出し、納得してもらうための高度なカウンセリング力が要求される。加えて、法的論点を抽出する、新しい判例を創るといったクリエイティビティも必要だ。

事実、英オックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授(当時)が2013年に発表した論文『未来の雇用』によると、弁護士がAIに代替され、職を失う可能性はわずか3.5%にすぎない。

弁護士業務とAIは棲み分けが可能だ

むしろ、弁護士業務とAIは、棲み分けが可能だ。まずAIは、依頼者からの法律相談を事前に交通整理し、弁護士が受任すべき案件かどうかを判断してくれる。また、判例・文献の自動表示や、裁判文書などのドラフトの自動作成など、AIが弁護士の補助ツールとして、生産性を飛躍的に高めてくれる。

弁護士の司法サービスにアクセスできるのは国民の2割ほどで、残りの8割は法的な支援を受けられていない実態があり、”2割司法”などと揶揄されている。高額な弁護士費用もその一因とされており、経済的事情から泣き寝入りしているケースは非常に多い。AIの活用によって弁護士の生産性が向上し、対応する司法案件が拡大することで、弁護士費用の高止まりも改善が期待される。

――弁護士がAIを活用することで、多くの人が司法サービスを受けられる社会が実現するのですね。

ただ、弁護士は医師と並んで専門性がきわめて高く、人の人生に影響を及ぼす領域。それだけに、AIの導入は慎重に検討しなければならない。司法サービスの質の担保とセットで議論すべきだ。

こういう話をするとよく「日本の司法界はガラパゴス」「既得権益を守ろうとしている」などと言われるのだが、弁護士の独占業務におけるAIの導入に慎重なのは、アメリカをはじめ世界的に共通する傾向。イノベーションはもちろん重要だが、テクノロジー至上主義で進めればよいものではない。政府や日弁連においてあるべき形でルール整備されることを期待している。

――元榮社長自身は2005年に弁護士ドットコムを創業し、「弁護士出身起業家」のパイオニアとして、リーガルテック市場を切り拓いてきました。今日ではリーガルテック領域で若い起業家の台頭もみられますが、その動きをどう見ていますか。

リーガルテックは世界的なトレンドなので、日本でも盛り上がりを見せているのは非常に歓迎すべきことだ。私自身、弁護士ドットコムを起業した当時は同じ弁護士出身の起業家が誰もおらず、ずっと1社でこの分野を走り続けてきた。何年も胃の痛みが治まらなかった時期もある。弁護士の職を離れ、リスクを負って挑戦する若い起業家の姿は、昔の自分に重なるところもあり共感できる。

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