「AI契約チェックは違法の疑い」の衝撃的な中身 法務省判断は急成長のリーガルテックに激震

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今回、弁護士ドットコムが照会をかけた4つのサービス形態は、外形的にはリーガルフォースやジーヴァテック、リセ、フレイムといったリーガルテック事業者が提供する既存サービスと酷似している。それゆえに今回の照会を弁護士ドットコムによる競合潰しと見る声も一部から出ている。

この点について、元榮代表は「本意ではない。弁護士ドットコムはイノベーションが社会をより豊かなものにすると信じている会社である。一方でコンプライアンスの徹底が求められる上場企業としての責任ある立場から、弁護士法の解釈が曖昧な領域はグレーゾーン解消制度を使って明確にすべきだと考えた。今回の回答によって、シロの部分が把握できたり、グレーの部分でもニュアンスから多くのヒントを得ることができた。こうした点を踏まえ、回答結果を公表することで、この重要なテーマについてのオープンで活発な議論に繋がれば有益だと考えた」という。

そもそも今回の照会結果をもって、既存のサービスがクロ判定を受けたということにはならない。なぜなら、グレーゾーン制度の評価対象は、あくまで申請した会社の事業計画であって、他社の事業計画は対象外だからだ。今回の判定結果が、既存サービスのユーザーの行動に何らかの影響を与えた形跡も今のところ見あたらない。

だがそれは同時に、今後もし、少しでも違法性が疑われる可能性があるサービスは利用しないとする利用者が現れた場合、既存サービスを提供している事業者が、自らのサービスの適法性証明のために、グレーゾーン解消制度を使って“お上のお墨付き”を得る選択肢はないということを意味する。

弁護士法のあるべき姿とは

グレーゾーン解消制度は事業開始前に事業の適法性を確認する制度なのであって、事業開始後に適法性確認のために利用することはできないからだ。

海外に目を向ければ、「少なくともアメリカでは弁護士会規則によってAI契約レビューサービスは厳しい規制を受けており、今回弊社が①-1の形態として掲げたような、フルスペック型のサービスを提供するアメリカ企業はないと認識している」(元榮代表)という。

弁護士ドットコムは、AI契約レビューに関する照会に加え、クラウドサイン(電子契約サービス)で締結した契約書類の管理サービスとして、リスクを検出する機能を追加するケースについても同時に照会し、こちらについてはクロ判定が出ている。AI契約レビューだけでなく、リーガルテック全体の議論が必要ということだろう。

弁護士法72条は法律の素人が法律行為を行うことで国民が被害を受けることがないようにする、つまりは国民を守ることを目的にしている。想定している加害者は反社会的勢力など「人」であって、AIの登場などもとより想定していない。

イノベーションを阻害することなく、法の本来の目的も損なわないためにはどうあるべきか。法が時代に合わなくなっているのなら、何を変え、何を残すべきなのか。社会全体でその議論をするべき時が来ているのは間違いない。

伊藤 歩 金融ジャーナリスト

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いとう・あゆみ / Ayumi Ito

1962年神奈川県生まれ。ノンバンク、外資系銀行、信用調査機関を経て独立。主要執筆分野は法律と会計だが、球団経営、興行の視点からプロ野球の記事も執筆。著書は『ドケチな広島、クレバーな日ハム、どこまでも特殊な巨人 球団経営がわかればプロ野球がわかる』(星海社新書)、『TOB阻止完全対策マニュアル』(ZAITEN Books)、『優良中古マンション 不都合な真実』(東洋経済新報社)『最新 弁護士業界大研究』(産学社)など。

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