批判的なメディアの報道に対し、永守氏は9月5日の社内の朝礼でいつもの「永守節」でこううそぶいてみせた。
「株価は下がっていくし、揚げ句に三流雑誌にいろいろ書かれるなんて、過去にはこんなことなかった。昔は日本電産がそんなに有名でなかったし、永守重信という人物もそんなに有名でなかったから。いかにわが社が立派な企業になったかということだ」
だが、立派な企業になったと喜んでいる場合ではない。ここに来て市場関係者は永守流の経営を危ういものと見なすようになってきているのだ。2021年2月に1万5000円台と上場来高値となった日本電産株は今年初めから急落し、後継者問題の迷走ぶりが伝えられるに伴い下落幅はさらに拡大。6月には8000円を割る水準まで売り込まれ、その後やや持ち直したとはいえ、2022年10月現在も8500円台半ばにとどまる。
1973年創業と製造業としては後発組ながら日本電産は驚異的な急成長を遂げ、グループ全体の売上高は2兆円近く、従業員数は11万人を超える巨大な上場企業となった。だが、社内からも「大きな中小企業」と言われるとおり、会社の急成長ぶりに比して経営体質は旧態依然としたままだ。
永守氏の独自の経営理念は、これまで多くのメディアによって持ち上げられてきたが、その実態たるやまるで昭和の時代のような精神論ばかり。にもかかわらず、あまりに礼賛されてきた故か、自ら会社を窮地に追い込むような、危ない橋を渡っていることに永守氏本人も気がついていないようだ。
自社株買いの条件を指示か
わずか1年余りで関氏を退任に追い込んだ今回の騒動で堪忍袋の緒が切れたのだろうか。パンドラの箱が開いたかのように多くの関係者が証言を始めた。
中でも日本電産の最大のタブーともいうべき問題は、自社株買いをめぐる疑惑だ。ある金融関係者が打ち明ける。
「毎年実施されている日本電産の自社株買いだが、実は同社では毎月のように買い付け条件が変更され、これに永守氏が深く関与している」
自社株買いとは、株主還元策として市場などで自社の株を購入し、株価を下支えしたり、買い取った株を役員や従業員に付与し士気高揚を図ったりするために行われる。しかし、自社の内部情報に基づいて自社株を購入することには、つねにインサイダー取引や株価操縦の危険がつきまとう。そのため、金融当局は、法令やガイドラインで厳しいルールを設け、とくに上場企業にはその徹底を図ってきた。
日本電産もほかの上場企業と同じように、取締役会で決議した自社株買いの取得枠を毎年公表し、また、毎月の自社株買いの実績も公表している。自社株買いは信託銀行に信託して行っており、一見、一般的な自社株買いのように見える。
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