2021年の連邦議会襲撃事件を極めつけに、民主党と共和党との現状認識はどんどんかみ合わなくなっている。
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今のアメリカはまるで「パラレルワールド」
――リベラル系の民主党と保守系の共和党の対立が先鋭化したことで、アメリカ社会の分断が世界の注目を集めて久しいです。どこまでひどくなるのでしょうか。
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渡辺靖(わたなべ・やすし)/慶應義塾大学環境情報学部教授。1967年生まれ。専攻は、文化人類学、文化政策論、アメリカ研究。上智大学外国語学部卒業後、1992年ハーバード大学大学院修了、1997年Ph.D.(社会人類学)取得。2004年、『アフター・アメリカ』でサントリー学芸賞を受賞。今年8月に新著『アメリカとは何か 自画像と世界観をめぐる相剋』を上梓(撮影:今井康一)
歴史上、アメリカが完全に1つになったことはない。
ある意味でつねにまとまらず、多様な意見や価値観があることが社会の活力につながり、アメリカという国の強みでもあった。そのこと自体は何も憂慮していない。
しかし、今の状況は深刻だ。私が本格的にアメリカ研究を始めた30年強前から、学界やメディアでは社会の分断が大きなテーマとして取り上げられていたが、その状況はますます悪化している。
極め付けは、2021年1月に起きた前代未聞の連邦議会襲撃事件だ。
民主党支持者は、あの事件を「民主主義への暴挙だ」とネガティブに捉えているが、トランプ前大統領の支持者やそれに近い共和党支持者は逆に「あれこそが表現の自由や市民不服従を意味するのであって、民主主義の証だ」と言っている。
一時が万事で、何についても両者の現状認識はかみ合わない。彼らが見ているアメリカはそれぞれに違って、パラレルワールドになっている。
――SNS(交流サイト)などの影響もありますが、話がかみ合わないという事例は枚挙にいとまがありませんね。
最近でもFBI(米連邦捜査局)によるトランプ氏の家宅捜索があったが、あのとき、「ひどいことが起きた、これでトランプも終わりだ」と言ったのが民主党支持者。共和党支持者の多くは「ひどいことが起きた、これで次期大統領はトランプで決まりだ」と言った。それほど違う。
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