国際社会でプレゼンスを高めて身を守っていく台湾にとって、ペロシという知名度の高い人物が中国の脅迫に屈せずに台湾に来て台湾の民主主義を称賛したのはプラスとなった。逆に、報道が出て中国が抗議して取りやめていれば、台湾に打撃となったであろう。
口実と警戒感
中国は「台湾海峡危機はアメリカの挑発が原因」だとして軍事演習を正当化する主張を広めている。日米豪欧のメディアの論調は中国の演習に批判的なものが多いが、一部で中国の主張に沿った解説も流れるなど、必ずしも中国批判一辺倒ではない。中国に口実を与えたのはマイナスになった。
他方で、中国の大規模軍事演習は、台湾有事に懐疑的であった諸国や人々にそのリスクを認識させた。中国は海外要人の台湾訪問が増えていることにいらだち今回「釘を刺した」つもりであったが、要人訪台はかえって増えている。中国警戒論がこれまで以上に広がり、中国にとっては「やりにくい」状況になることが予想される。台湾にとっては国際社会の支持・同情を得やすくなるという点でプラスになった。
ペロシ訪台の総合的評価
ペロシが台湾の自由と民主の価値を国際的にアピールしたことは台湾にとって政治的プラスである。一方、中国がペロシ訪台を口実として台湾海峡中間線を越える軍事行動を常態化させたことは台湾にとって軍事的マイナスである。ペロシの訪台はプラスとマイナスが交錯し、見る角度で評価の仕方は変わってくる。
ペロシ訪台の評価は今後の展開によっても左右される。この先、中国が「外堀」を埋めた優位を生かして軍事的圧力を効果的に高めてくればペロシ訪台が失敗であったことになる。他方で、大規模軍事演習を見た関係諸国の危機感の高まりが台湾有事の備えの強化につながれば、ペロシ訪台はプラスに評価される。
危機は終わったわけではない。8月に中国が発表した「台湾白書」は習近平が3期目に入り統一圧力を強めることを予告している。2024年台湾総統選挙は1つの焦点になるであろう。ペロシ訪台の評価をめぐる議論はまだまだ続いていく。
(小笠原欣幸/東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら