台湾民意基金会の過去の調査では「信じる」が「信じない」を上回っていたが、ロシアのウクライナ侵攻後、これが逆転した。アメリカがウクライナに武器の支援はするものの軍を出さなかったことで、台湾有事の際のアメリカ軍介入への期待が大幅に低下した。その後「信じる」が徐々に回復する傾向にあった。ペロシ訪台は回復の傾向に寄与したと見ることができる(図2)。
「アメリカ軍介入は期待できない」という見方が定着すれば、台湾人が中国の統一攻勢に抗していく意志にも影響を与えることになるであろう。アメリカ議会で審議されている「台湾政策法」は台湾の対米信頼感を回復させるうえで重要な動きである。バイデン大統領の台湾防衛発言も台湾では歓迎されている。しかし、アメリカの議会と政権の認識にズレが生じたり、専門家の間で意見が割れたりするのは台湾の不安感につながる。アメリカが「ワンボイス」で台湾政策を進めていけるかどうかが鍵になる。
現状維持の要因
中華人民共和国は1949年の成立以来、台湾解放(毛沢東)、平和的統一(鄧小平)、中国の夢(習近平)を唱えてきたが、台湾統一は実現できないでいる。台湾を統治する中華民国は、民主化・台湾化という大きな変化を遂げながら存続してきた。これが台湾海峡の現状となっている。
台湾が現状を維持することができた要因は何であろうか。もちろん台湾の軍事力とアメリカ軍介入の可能性が大きな要因である。
しかし、筆者は最も重要な要因は台湾人の「統一されたくない」という意志であると考える。その意志は、民主化後の台湾の歩みに多数派の台湾人が誇りと自信を持っていることで培われた。そして、その自信は、海外(実際上は影響力が大きい日米)からの肯定が大きな支えとなっている。それが、国際的に孤立していても「やっていける」という現状維持の自信につながっている。
1995~1996年の第3次台湾海峡危機のきっかけは李登輝の訪米であった。それを批判する人は一定数存在する。だが、多くの台湾人にとって、李登輝の訪米は「自分たちの思いを代弁してくれた」という感覚であった。それがのちに「自分たちは危機を乗り切った」という集合的記憶となった。だからこそ、中国の軍事的威嚇にも冷静でいられるのである。李登輝の訪米とペロシの訪台は重なるところがある。
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