「やる気が出る・出ない」を決める脳の凄い仕組み 大変だけど頑張ってみようという状態に至るには

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次に、ドーパミン受容体の働きを阻害する薬(阻害薬)をサルに投与し、「報酬が大きいときに高まる意欲」と「コストが増えることで下がる意欲」に対する、D1、D2受容体のそれぞれの役割を比較しました。

その結果、待ち時間なしに多くの報酬が期待でき、やる気が上がる際には、D1、D2受容体の両方が必要なのに対して、コストはかかるけど頑張ろうというやる気が上がる際には、D2受容体の働きが必要不可欠であることがわかりました。

現実的には、その努力にはどんなメリットやデメリットがあるかというのは不確実で、その中から、報酬を期待して努力するかどうかを判断しなければなりません。その判断に、どんな脳部位が関与しているかは、完全には明らかになっていませんでした。

「できる」と「できない」の間にあるもの

アメリカのエモリー大学の研究者らは、被験者に、「何の努力もせずに1ドル」か「何らかの努力をすれば最大5.73ドル」がもらえるという、不確実な情報に基づいて努力するかどうかを意思決定させ、その際の脳活動を機能的MRIで計測しました。

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その結果、前頭前野腹内側皮質と呼ばれる脳部位が、試行の期待値の計算に関与していることが示されました。また、背側前帯状皮質、前部島皮質、背内側尾状皮質からなるネットワークが、過去の試行履歴に基づいて、努力に見合うほどの報酬を得られなかったことの計算に関与することも明らかにしました。

これらの結果は、不確実な情報が与えられた際には、メリットに基づいた計算を行うことで、努力するかどうか判断していることを示しています。

うつ病や発達障害などの精神疾患の患者では、〝できる〟と〝できない〟の間に、「できるけど疲れる、面倒くさい」ことが多くあるといいます。この研究の結果は、ヒトが「大変だけど頑張ろう」という気持ちを理解するうえで、重要な手がかりとなることが期待されます。

毛内 拡 お茶の水女子大学 基幹研究院自然科学系 助教

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もうない ひろむ / Hiromu Monai

1984年、北海道函館市生まれ。2008年、東京薬科大学生命科学部卒業2013年、東京工業大学大学院総合理工学研究科 博士課程修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員、理化学研究所脳科学総合研究センター研究員を経て、2018年よりお茶の水女子大学基幹研究院自然科学系助教。生体組織機能学研究室を主宰。脳をこよなく愛する有志が集まり脳に関する本を輪読する会「いんすぴ!ゼミ」代表。「脳が生きているとはどういうことか」をスローガンに、マウスの脳活動にヒントを得て、基礎研究と医学研究の橋渡しを担う研究を目指している。研究と育児を両立するイクメン研究者。分担執筆に『ここまでわかった! 脳とこころ』(日本評論社)など。

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