前代未聞の急激な円安は日本に何をもたらすのか インフレに円安が加わり、しかも低賃金

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それにしても、今回の円安は近年まれに見るハイペースでした。2021年の年初のドル円相場は、1ドル=104円で推移していましたが、その後、一気に円安が進み、2022年に入って勢いが加速しています。

円安が進んだ最大の理由は、日米の金融政策に大きな違いが生じており、両国の金利差が拡大するとの予想が高まったからです。

リーマン・ショック以降、各国の中央銀行は国債を積極的に購入し、市場にマネーを供給する量的緩和策を実施してきました。日本を除く各国は量的緩和策がそれなりの効果を発揮し、景気は順調に回復。アメリカの中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は2022年3月に量的緩和策を完全に終了し、金融正常化に向けて利上げを開始しました。

一方、日銀は依然として量的緩和策を継続中で、現時点で(2022年9月30日)金融政策を変更する方針は示していません。それどころか、金利を一定以上に上げないようにする指し値オペ(一定以上の金利になった場合、無制限で国債を買い取る措置)を実施するなど、あらゆる手段を使って金利上昇を回避するという強い意志が感じられます。

売られる円

金利が高い国の通貨は銀行に預けたり、国債を持っているだけで高い金利収入を得られます。たとえば100万円の資金をアメリカドルで運用すると、2022年6月時点の長期金利は約3.5%ですから、1ドル=100円とすると、年間3万5000円の利子収入が得られます(税金は考慮に入れない)。

日本の長期金利はアメリカの14分の1の0.25%ですから、2500円の利子収入しか得られません。投資家にすれば、ドルで運用したほうが有利ですから、ドルは買われやすく、日本円は売られやすくなります。

高金利には、金融を引き締める効果があります。アメリカは金利を上げて金融を引き締め、量的緩和策で大量供給したドルを回収しようと試みています。市場に出回るドルの量が減れば、価値が上昇しますから、ドルは上昇しやすくなります。一方、日本は低金利を死守することで円の大量供給を続けている状態ですから、日本円の価値は下がりやすくなります。つまり、円安ドル高が進みやすくなるのです。

しかも2022年以降、全世界的にインフレ傾向が激しくなっています。インフレを抑制するもっとも効果的な手段の1つは金利の引き上げによる自国通貨高ですから、アメリカは金利の引き上げとそれにともなうドル高を強く望んでいます。いっぽうの日本は金融緩和を継続しており、事実上、円安を容認する形になっています。このため、市場では円が売られやすい状況が続いているのです。

過去にも日米で金利差が開いたことはありましたが、金利差が拡大しただけでここまで円が売られるのは前代未聞の事態です。なぜ、今回に限って激しい円安をもたらしているのでしょうか。

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