支持率30%を割り込んだ韓国・尹錫悦政権の現実 労働市場改革と福祉政策拡大で浮揚なるか

拡大
縮小

保育院(日本の児童養護施設)などの施設から独立する子どもや若者の自立を支援するために支給する自立手当も、月30万ウォン(約3万円)から40万ウォン(約4万円)に引き上げられ、医療費支援も新設される。施設などで暮らせるのは原則満18歳までとなっていたが、2021年12月の国会で保護終了期間を最長で満24歳まで延ばした「児童福祉法」の改正案が成立した。

保健福祉部が2020年に発表した「保護終了児童の自立実態及び欲求調査」によると、保護期間が終了する者のうち、大学に進学する割合は62.8%で、一般の若者の大学進学率7割には至らないものの、決して低い数値ではない。一方、保育院から独立した若者の失業率は16.3%で一般の若者の失業率(2020年9.0%)を大きく上回っていることが明らかになった。大学を卒業し、安定的な雇用を確保するまで継続的に支援をする必要があることが分かる。

党内対立、妻の問題を解消できるか

その他に国民基礎生活保障制度(日本の生活保護制度)の生計給付(日本の生計扶助)の支給額(4人家族基準月154万ウォン(約15.4万円)から月162万ウォン(約16.2万円)に)と、生計給付と医療給付(日本の医療扶助)を受給するための財産基準も引き上げられる。

このような施策が、尹政権の支持率回復にどこまで寄与するかは、まだ未知数だ。支持率が低くなった20代と30代、そして中道の有権者の支持率が上がらないと2024年の第22代総選挙(国会議員を選ぶ選挙)と2027年の大統領選挙で勝利し政権を維持することは難しい。

支持率の回復のためには上述した労働市場改革や福祉政策の拡大のみならず、尹大統領自らが政治を理解し感情をコントロールする能力を高めるとともに、側近に偏らない人材を登用する勇気が必要だ。さらに、何よりも党内の「李俊錫リスク」とファーストレディーの「金建希リスク」を最小化することこそが支持率回復の近道になるだろう。

金 明中 ニッセイ基礎研究所 主任研究員

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

きむ みょんじゅん / Myoung-Jung Kim

1970年生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、亜細亜大学創造学部特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT