支持率30%を割り込んだ韓国・尹錫悦政権の現実 労働市場改革と福祉政策拡大で浮揚なるか

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次に、マスコミからの援護射撃が少ないことだ。韓国の大統領は公共放送局や通信社などのマスコミの役員を任命、または任命に際して影響力を行使できる。現在、公共放送局や通信社などの役員の中には文在寅氏が任命した者が多く、かつ任期も残っている。

そうした役員たちが尹政権の味方になり、政権を援護することは考えにくい。また、保守系メディアからの援護射撃も少なくなった。政権交代に安心した保守系メディアが、中道の有権者をつかむために、以前より中立的な立場で報道をしているからである。

3つめの要因は、「国民の力」で内部分裂が起きていることだ。尹大統領の側近、いわゆる尹核関(尹大統領の核心関係者)と、元党代表の李俊錫氏が対立していることで、国民の与党離れが加速化している。「国民の力」の安哲秀議員は2022年8月15日、自分のフェイスブックで「外部の敵より恐ろしいのは内部の分裂」と警鐘を鳴らしたほどだ。

最後に、「ファーストレディー」の金建希(キム・ゴンヒ)氏と関連した問題が絶えないことだ。2022年3月の大統領選前には、金氏が知人の株価操作に関わり利益を得た疑惑が報じられた。また、過去の就職活動での経歴詐称の問題もあった。ファーストレディーになった後も公式の場に知人と同行したことや、金氏のファンクラブサイトに大統領執務室などで撮影された大統領夫妻の写真や尹大統領のスケジュールが公開されたことが報道されると、国民は不信感を募らせた。

年功序列と賃金体系の見直しに着手

そのような状況において、尹政権は選挙公約を実現するため、そして支持率を回復するために労働市場改革と福祉政策の拡大を推進した。

韓国の雇用労働部(省)は2022年6月23日に「労働市場改革推進方向」を発表し、労働時間制度と年功序列を中心とする賃金体系を見直すべきとアピールした。

韓国では2018年2月に改正勤労基準法が成立し、同年7月1日から公共機関と従業員数300人以上の事業所を対象に「週52時間勤務制」が施行された。そして、2020年1月からは従業員数50人以上299人以下の事業所に、さらに、2022年1月からは従業員数5人以上49人以下の事業所に改正法が適用されることになった。

「週52時間勤務制」とは、残業時間を含めた1週間の労働時間を52時間までに制限する制度のこと。違反した場合は2年以下の懲役または2000万ウォン(約200万円)以下の罰金が科される。この制度の目的は、長時間労働の問題を解消することで労働者のワーク・ライフ・バランスを実現させること、そして既存労働者の労働時間減少により新しい雇用を創出することにある。

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