米国株はどうなる?「重要な7つの質問」に答える 景気後退リスクが高まり、株価はさらに下落?

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――長期金利はまだ上昇気味だが、今後も高止まりするのか。

短期の2年債などは利上げの影響を大きく受け、利回りが一段と高まることはありうる。ただ、10年債は長期的な経済の展望などに基づいて価格が市場で形成されているため、連銀の利上げが大きく景気を傷めると想定されるのであれば、短期債利回りが上がっても長期債利回りは上がりにくいはずだ。

また、10年債の利回りは、投資家によるインフレの予想値(期待インフレ率)とそれ以外に分解できるが、インフレ予想値は4月でピークアウトしている。つまり、すでに債券の投資家は、インフレについては先行き低下方向で「勝負あった」と判断しているわけだ。

今後、インフレが高進することなどによって長期金利が現水準から大きく跳ね上がり、それが株価を傷めつけるという展開は見込みにくい。

本格的な景気や株価の悪化はまだ先

――アメリカの長短金利といえば、逆イールド(長短金利差がマイナスになること)は景気や株価の悪化を示唆するといわれる。今後、景気や株価が急速に悪化するリスクが大きいのではないか。

10年債と2年債の利回りで差をとると、10年が2年を本格的に下回り始めた年月と、景気の山(そこから先は景気の下り坂)、株価(S&P500)の山の時期の関係は、以下のとおりだ。なお、下記の年月は、逆イールドの開始時期→景気の山の時期(逆イールド開始からの年月)→株価の山の時期(逆イールド開始からの年月)を表す。

2000年2月→2001年3月(1年1カ月)→2000年9月(7カ月)
2006年6月→2007年12月(1年6カ月)→2007年10月(1年4カ月)
2019年8月→2020年2月(6カ月)→2020年2月(6カ月)

今回は2022年7月に逆イールドが始まっているため、過去のパターンを「機械的に」当てはめれば、景気の山は2023年1月(6カ月)~2024年1月(1年6カ月)、株価の山は2023年1月(6カ月)~2023年11月(1年4カ月)となる。いずれにせよ、本格的な景気や株価の悪化は2023年のことであって、今すぐではないということが示唆されている。

(当記事は会社四季報オンラインにも掲載しています)

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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