社外取締役義務化で「出世コース」が変わる 6月導入の新規則で企業のガバナンス強化

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財界による人材確保の動きはすでに活発化。「直接、間接に候補者に意向を伝えはじめている」(大手製造業)と言う。弁護士会や公認会計士協会なども、企業に加盟会員を社外取締役として紹介するような対応に出ている。

しかし、今回のコードが求めている独立社外取締役は「経営に精通しているような人材」や「株主の視点に立って発言できる人材」であり、その意味で第一候補となるのは企業での経営経験者になると考えられる。

一方、企業側は受け入れ態勢の準備も進めているようだ。年明け以降、上場企業による役員人事の内容を見ると、執行役員人事が増えている一方で、取締役人事のほうは現状人数の維持、あるいは、現状人数を抑制するような傾向が出ている。これは、プロパー社員の昇格は執行役員コースで、取締役は外部から招聘するという潮流の兆しのようにも見受けられる。

企業の動きはこれだけにはとどまらない。会社法改正で導入された「監査等委員会設置会社」への移行を表明する企業も散見される。監査等委員会設置会社の場合、社外監査役を社外取締役として1名選任し直せば、同コードの要請をクリアできるとされているためだ。実際、監査等委員会設置会社への移行を表明したある企業のトップは「2名の独立社外取締役という態勢の運営は当社にとっては重いので、この選択をした」と説明している。

対象外の新興企業も努力が必要

確かに、2名以上の独立社外取締役を選任し、その態勢で経営していくことは企業には大きな負担となる可能性はある。したがって6月以降も、同コードが要請する態勢を構築できない企業が出ることも十分に想定できる。その場合、企業は態勢を構築していない理由とその後の見通しを説明する義務を負うことになる。

そうした「過渡的な対応」は、同コード導入から1、2年の間は認められるようだ。しかし、3年を経過しても、同コードが要請するレベルを満たせないということが許されるかどうか。同コードが広く定着化するほど、対応が遅れる企業は市場からネガティブな評価を受けることにもなりかねない。

他方、今回、同コードの対象外となった新興市場企業は、とりあえず、複数の社外取締役の選任などの対応を取らずにすむ。しかし、他人資本を得て経営している以上、株主の厳格なチェックに堪えられる経営態勢が求められることは何ら変わらない。むしろ、自主的な努力が行われているかどうかという観点が、新興市場企業に対する新たな評価項目となることが考えられよう。

浪川 攻 金融ジャーナリスト

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なみかわ おさむ / Osamu Namikawa

1955年、東京都生まれ。上智大学卒業後、電機メーカー勤務を経て記者となる。金融専門誌、証券業界紙を経験し、1987年、株式会社きんざいに入社。『週刊金融財政事情』編集部でデスクを務める。1996年に退社後、金融分野を中心に取材・執筆。月刊誌『Voice』の編集・記者、1998年に東洋経済新報社と記者契約を結び、2016年にフリー。著書に『金融自壊――歴史は繰り返すのか』『前川春雄『奴雁』の哲学』(東洋経済新報社)、『銀行員は生き残れるのか』(悟空出版)などがある。

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