米国株が下落するなら日本株を買うチャンスだ 日経平均株価の年内の戻りはいくらになるのか

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マーケットのタブー(不都合な事実には触れないこと)なのかもしれないが、私は「QT本格化」の悪影響について、マーケット関係者の言及(コメントやオピニオン)が少ないように感じている。

FRBの資産規模は、2007年1月には約0.9兆ドルしかなかった。だが2008年のリーマンショック以降の金融緩和で急増、2015年には4兆ドルを超えた。その後は4兆ドル前後を維持していたが、コロナショック後の緩和でさらに急増、2022年3~4月の約9兆ドルまで膨れ上がった。

この動きはほぼアメリカの株価と連動しており、FRBはQT(資産規模縮小、金融引き締め)によって、今年から資産規模を3年かけて約3兆ドル減少させ、約6兆ドルにまで減らす予定だ。

具体的に言えば、この9月から毎月950億ドルを減らす計画だ。ラフな試算ではあるが、今後3年間のS&P500種指数のEPS(1株利益)予想を横ばいとすると、3年後のS&P500種指数はコロナショック直前2年間の株価レンジ(2500~3000ポイント、9月16日は3853ポイント)まで下落するリスクがある。

一部のマーケット関係者は「QT本格化はすでに発表され、織り込み済みだ。しかも3年かけてゆっくり実施するので大きなインパクトはない」と一蹴する向きもある。だが私はまだまだ織り込まれていないように感じている。

正直なところ、株価の先行きを予測するには不透明な要因(地政学リスク、インフレの行方や世界景気の減速リスク・米欧の金融政策の引き締めリスクなど)が多すぎる。

だが、あえてここは個人的にリスクをとって予測してみたい。まず短期的には9月21日のFOMCの結果発表前後までは下落が続くとみており、日経平均株価は2万7000円前後までの下落が視野に入る。その後、もしFOMCの結果が「悪材料出尽くし」にならなければ9月末、長引けば10月上旬まで下落が続き、一時的に2万7000円を割り込む(2万6500円~2万7000円前後)リスクもあるとみている。

重要イベント通過で悪材料を織り込み、株価反転も

一方、株価下落があったとしても、その後、年末までの株価見通しは前回の見方を基本的に維持したい。つまり、株価の調整後は年末にかけて再度上昇に転じるものの、日経平均株価の年内の戻り高値は2万9000円前後から3万円というものだ。

もし、この後に来る株価下落が想定以上だとしても2万8000円以上の反転はあるとみることにも変わりない。なぜなら、日本株はアメリカ株と相対比較して予想PER(株価収益率)などのバリュエーション(企業価値評価)も低く、また企業統治改革の余地も高いという点で、魅力的だからだ。

アメリカ株の下落に伴う、日本株の押し目買いを仕掛ける大きなチャンスが近づいていると言えよう。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

糸島 孝俊 株式ストラテジスト

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いとしま たかとし / Takatoshi Itoshima

ピクテ・ジャパン株式会社投資戦略部ストラテジスト。シンクタンクのアナリストを経て、日系大手運用会社やヘッジファンドなどのファンドマネジャーに従事。運用経験通算21年。最優秀ファンド賞3回・優秀ファンド賞2回の受賞歴を誇る日本株ファンドの運用経験を持つ。ピクテではストラテジストとして国内中心に主要国株式までカバー。日経CNBC「昼エクスプレス」は隔週月曜日、テレビ東京「Newsモーニングサテライト」、BSテレビ東京「日経ニュースプラス9」、ストックボイス、ラジオNIKKEIなどにも出演中。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、国際公認投資アナリスト(CIIA)、国際テクニカルアナリスト連盟認定テクニカルアナリスト(CFTe)。

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