ホンダ社長交代、飛躍の準備は万全なのか 新車投入の遅れも響き2014年度は減益の公算

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八郷氏のほか、伊東社長が会見で名前を挙げたもう一人のキーマンが、松本宜之・常務執行役員だ。開発責任者として初代「フィット」を成功させ、その後は小型自動車部門のトップに就き、国内軽自動車の拡大にも貢献。13年には、新設のアジア・大洋州生産統括責任者となり、インド子会社の社長を務めた。今回の異動で、取締役専務執行役員に昇格し、四輪事業本部長を任されることになった。 

これで四輪事業本部長を外れる取締役常務執行役員の野中俊彦氏は、ホンダエンジニアリング社長に就任する。野中氏が同本部長に就いたのは、「フィット」でリコールが相次ぐ最中の14年4月。その後も問題は収束せず、7月、10月にもリコールが起きた。伊東社長の“腹心”として二人三脚で四輪事業のテコ入れに尽力してきたものの、わずか1年での担当交代は、リコール問題にけじめをつけたとも見える。

開発現場は意気消沈?

ホンダは開発部門に相当な負荷をかけたとの認識から、同一車種の仕様を今後3~4年かけて2割程度削減、品質向上につなげる方針だ。が、本田技術研究所のある中堅エンジニアは、「研究領域は広がる一方、今後何に力を入れていくかなど、会社の方向性が現場には伝わってこない。リコール問題の後、開発現場は意気消沈している」と内情を打ち明ける。現場が求めているのは、単なる負担軽減ではなさそうだ。

6年ぶりの社長交代とあって、23日のホンダの緊急会見には、100人以上もの報道陣が詰めかけた。しかし、会見はわずか25分。質疑の大半は伊東社長が答え、八郷氏は当たり障りのないコメントに終始した。

抱負を問われた八郷氏は、「革新的な商品や技術を生み出し、世界6極体制をさらに進化させたい」と、伊東社長が敷いた路線の強化を図る考えを示した。だが喫緊の課題は、一連のリコールで毀損した対外的な信頼の回復だ。そのためにも、商品を作り出す開発の現場にあらためて耳を傾け、将来の方向性をきちんと示すことで、力を再結集する必要があるだろう。

世界に目を向ける前にやるべきことは、入念な足場固めなのかもしれない。

「週刊東洋経済」2015年3月7日号<2日発売>「核心リポート02」を転載)

木皮 透庸 東洋経済 記者

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きがわ ゆきのぶ / Yukinobu Kigawa

1980年茨城県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科修了。NHKなどを経て、2014年東洋経済新報社に入社。自動車業界や物流業界の担当を経て、2022年10月から東洋経済編集部でニュースや特集の編集を担当。

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