「勉強しないとああなる」暴言に清掃員伝えたい事 ごみ収集作業員が先生?環境学習に携わる職員

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これまで現業職員は単純な作業を行う人員であると判断され、地方自治体の行政改革により削減され続け委託業者へと転換されてきた。その結果、地方自治体の中には、清掃職員をまったく擁さず、複数人の事務系の職員が委託業者を管理する形で通常のごみ収集サービスを提供しているところが多くなっている。

委託化が推進されていく要因には地方自治体の財政難があるが、それに加え自らの業務を清掃職員自らで定型化させてしまう点があげられる。与えられた仕事のみをこなし、毎日単純に繰り返していくという形がそれに該当する。業務が定型化してしまえば、管理者は「誰でもできる仕事」であると判断しやすくなり、委託業者へと切り替えていく手立てを講じていくようになる。

脱「単純労務職」

そのような状況の中で直営の行政サービス従事者がとる対抗策としては、絶えず現場で接する住民のニーズをコミュニケーションの中から把握し、それらを満たしていくように自らの業務に工夫を施し、日々進化させていくしかない。

この点に気づいていた自治体の現業職員は、たとえそれが労働強化になろうとも、自らの職を進化させてきた。東京都八王子市では、現業職員は脱単純労務職(脱単(だつたん))をスローガンにし、現場の英知を積極的に活用し、より質の高い行政サービスを提供することを心がけてきた。

その結果、現場の視点から市民に必要な行政サービスが提供されるようになり、「生活環境職」という職が確立されていった。

今回取り上げた環境学習や啓発活動は、まさに普段の清掃職員の業務を進化させた形であり、今後も磨きをかけて発展させていける余地が多く含まれたものである。今後どのように環境学習が進化を遂げていくかは興味深く、また、これらをはじめとして清掃職員がどのように自らの職を発展させ住民サービスの質を向上させていくのかも興味深い。

現場での経験に基づいた迫力のある説明は清掃職員ならではであり、誰にでも一朝一夕に真似はできない。彼らの気迫が受講生の心を掴み、ごみ出しのときに分別や適正排出を心がけるようなきっかけを提供し、清掃行政に参加する人材へとなっていく。

機会があれば、ぜひとも清掃職員が行う環境学習を聞いてみてほしい。廃棄物や環境に関する知識を身に付けられるのみならず、彼らの業務への思いや住民とともに自治体の環境を守っていきたいという思いを痛感するだろう。

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藤井 誠一郎 立教大学コミュニティ福祉学部准教授

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ふじい せいいちろう / Seiichiro Fujii

1970年生まれ。同志社大学大学院総合政策科学研究科博士後期課程修了。博士(政策科学)。同志社大学総合政策科学研究科嘱託講師、大東文化大学法学部准教授などを経て現職。専門は地方自治、行政学、行政苦情救済。

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