余談ですが、転職エージェント(人材紹介会社)は高い報酬の会社に転職してもらったほうが、会社側から高い手数料がもらえます。ゆえに、報酬の高い会社を勧めがち。こうした、エージェント側の事情で、高い報酬の会社に転職することイコール転職の成功、という認識を助長した可能性があります。
話を戻します。それでも黒田投手のように報酬の「安いほう」を選ぶ人がいます。前職より安い、オファーがいちばん高いわけでない会社への転職です。
筆者は、転職経験はありません。が、人材紹介会社の事業部長を務めたことがあります。それが現在のリクルートキャリアですが、この会社の調査(2014年)によると、現職より報酬が下がるにもかかわらず転職した人は全体の3割以上。報酬ダウンでも転職する人はけっこういるのです。
では、どうして報酬ダウンでも転職をするのか? まずありうるのは「逃避型」。上司や同僚との人間関係が耐えがたい、仕事で結果が出ないために居場所がない――と、現在の職場から逃げられるなら、待遇は気にしないという人は確かにいます。筆者も、
「今の上司の指導は過酷すぎる。気楽に働ける会社に転職したい。報酬が下がってもかまわない」
と相談を受けたことが何回もあります。きれいな言葉で言えば、ワークライフバランスを重要視する選択。ただ、こうした転職は黒田投手の決断とはまったく異なります。後ろ向きに報酬ダウン転職するパターンだからです。このパターンに関しては本記事では割愛して、「前向き」なものを分析していきます。
「前向き」に決断する人たちの”判断基準”
でも、報酬ダウンをどうして前向きに決断ができるのか? 周囲の反対はあるでしょうし、生活レベルを下げざるをえなくなるかもしれません。生活レベルを下げることは苦痛が伴うものです。たとえば、狭い部屋に引っ越す、食事する店が変わるなど、日々の生活水準のダウンは意外とこたえるものです。
その覚悟も含めて、前向きに決断できるとすれば、それなりに理由があります。報酬ダウンで生活レベルを下げ、そのままでかまわないという人はあまりいません。実は、将来的に得られる対価への「投資」と判断している人が大半です。転職に際して、いったんは報酬が下がるものの、いつかは相応の形で返ってくる――そう思っているのです。
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