大局的にとらえたならば、賠償金よりもはるかに大きな恩恵を日本に与えることになった大久保の外交。
もちろん、大久保の行った方向づけがすべて肯定されるわけではない。なにしろ、琉球併合は、琉球側の意向はいっさい無視して、明治政府により断行されたものだ。また、清と友好関係を築いたといっても、結局は日清戦争で両国は戦うことになる。
いつでも死力を尽くしていた大久保利通
それでも、大久保が「日本にとってこれがベストだ」というビジョンを描き、それを実現させるために、いつでも死力を尽くしたのは疑いようのない事実である。
沖縄の誕生も、興亜会の設立も、大久保の死後に実現した。働きかけの結果を自身は見届けられなかったが、大久保は気にもしなかったに違いない。
メキシコの革命家エミリアーノ・サパタは、こんなふうに語ったことがある。
「われわれの植えた木の果実を、わたしは決して目にすることがないだろう」
それでも国のあるべき未来のために骨を折るのが、政治家の本来の姿だ。大久保もまさにそんな気持ちで、近代国家の礎を作るために粉骨砕身したのだと思う。清から帰国してから暗殺されるまで、大久保に残された月日は4年。本人の知らないところで、人生のタイムリミットが近づいていた。
(第48回につづく)
【参考文献】
大久保利通著『大久保利通文書』(マツノ書店)
勝田孫彌『大久保利通伝』(マツノ書店)
西郷隆盛『大西郷全集』(大西郷全集刊行会)
日本史籍協会編『島津久光公実紀』(東京大学出版会)
徳川慶喜『昔夢会筆記―徳川慶喜公回想談』(東洋文庫)
渋沢栄一『徳川慶喜公伝全4巻』(東洋文庫)
勝海舟、江藤淳編、松浦玲編『氷川清話』(講談社学術文庫)
佐々木克監修『大久保利通』(講談社学術文庫)
佐々木克『大久保利通―明治維新と志の政治家(日本史リブレット)』(山川出版社)
毛利敏彦『大久保利通―維新前夜の群像』(中央公論新社)
河合敦『大久保利通 西郷どんを屠った男』(徳間書店)
瀧井一博『大久保利通: 「知」を結ぶ指導者』 (新潮選書)
勝田政治『大久保利通と東アジア 国家構想と外交戦略』(吉川弘文館)
清沢洌『外政家としての大久保利通』 (中公文庫)
家近良樹『西郷隆盛 人を相手にせず、天を相手にせよ』(ミネルヴァ書房)
渋沢栄一、守屋淳『現代語訳論語と算盤』(ちくま新書)
安藤優一郎『島津久光の明治維新 西郷隆盛の“敵”であり続けた男の真実』(イースト・プレス)
佐々木克『大久保利通と明治維新』(吉川弘文館)
松尾正人『木戸孝允(幕末維新の個性 8)』(吉川弘文館)
瀧井一博『文明史のなかの明治憲法』(講談社選書メチエ)
鈴木鶴子『江藤新平と明治維新』(朝日新聞社)
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