アマゾンとウォルマートの勝負を分ける重大要因 DXからサービス・プラットフォーム化の段階に

✎ 1 ✎ 2 ✎ 3
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小
ウォルマートのデジタル化成功から学ぶDXの要諦

2社の勝負の分かれ目はどこにあるのか。キーワードは、デジタル化、サービス化、エコシステム化(プラットフォーム化)にあると考えます。前述のとおり、小売事業のデジタル化が著しく進んだことは明らか、残るはサービス化、プラットフォーム化の勝負になります。

サービス化におけるトピックは「サブスク」です。サブスクには、有料会員制をとることで宅配コストを顧客負担に回す効果もあれば、「料金を払っているんだから使わないと損」という判断を促す効果があります。しかし何より、本質的には顧客との親密な関係性づくり、すなわち顧客のロイヤルティー向上のための施策にほかなりません。

「アマゾンプライム」vs.「ウォルマート+」の行方

アマゾンのサブスクといえばご存じのとおり「アマゾンプライム」です。月額14.99ドルで、購入品の即日配送などの配送特典のほか、Prime Video、Amazon Music Prime、Amazon Photos、Prime Reading等のデジタル特典を受けられます。

一方、ウォルマートのサブスク「ウォルマート+」は、月額12.99ドルで無料配送とガソリン割引などに限られていました。しかしここへきてウォルマートは、パラマウントの動画配信サービスを追加すると発表しました。アマゾンプライムは日本円にして約2000円。ウォルマート+は約1800円。両方加入するには家計負担を感じさせる金額です。ウォルマート+のサービス拡張は、「アマゾンプライムか、それともウォルマート+か」という選択を消費者に突きつけるものになるでしょう。

もちろん、動画配信サービスが勝敗を決するとはいいません。より重要なのは、単一のサービスの優劣をめぐる戦いではなく、エコシステムの戦いだからです。アマゾンがアマゾンプライムによってユーザーのロイヤルティーを高め囲い込みに成功しているように、ウォルマートは「ウォルマート+」の上にさまざまな特典を追加することで同様の効果を期待しているはず。これからは配送関連のサービスのみならず、生活サービス全般をサブスクでカバーできるかどうかの勝負になるに違いありません。

そして、これからさらにサービスが追加され、月額料金の値上がりも予想されることを考えると、あれもこれもとサブスクを契約するというのは考えにくい。最終的にはより顧客中心で、より優れた顧客体験を提供できるほうが、消費者に選ばれるのです。

EC単独でみればアマゾンはやはり強力です。またテクノロジー企業でもあるアマゾンは、AWS等で稼いだ利益をEC小売に投資することも可能であることを考えると、早晩「世界一の小売企業」の座をアマゾンが奪うとの読みが大勢かもしれません。しかしどちらがより顧客中心の小売事業者か、その結論をめぐる戦いは、まだまだ続きそうです。

ガチンコ好敵手2社 勝負の分かれ目
画像をクリックすると連載一覧にジャンプします
田中 道昭 立教大学ビジネススクール教授

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

たなか みちあき / Michiaki Tanaka

シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略およびミッション・マネジメント&リーダーシップ。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)などを経て、現在は株式会社マージングポイント代表取締役社長。主な著書に『「ミッション」は武器になる』(NHK出版新書)、『アマゾンが描く2022年の世界』(PHPビジネス新書)、『GAFA×BATH 米中メガテック企業の競争戦略』(日本経済新聞出版社)など。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事