2社の勝負の分かれ目はどこにあるのか。キーワードは、デジタル化、サービス化、エコシステム化(プラットフォーム化)にあると考えます。前述のとおり、小売事業のデジタル化が著しく進んだことは明らか、残るはサービス化、プラットフォーム化の勝負になります。
サービス化におけるトピックは「サブスク」です。サブスクには、有料会員制をとることで宅配コストを顧客負担に回す効果もあれば、「料金を払っているんだから使わないと損」という判断を促す効果があります。しかし何より、本質的には顧客との親密な関係性づくり、すなわち顧客のロイヤルティー向上のための施策にほかなりません。
「アマゾンプライム」vs.「ウォルマート+」の行方
アマゾンのサブスクといえばご存じのとおり「アマゾンプライム」です。月額14.99ドルで、購入品の即日配送などの配送特典のほか、Prime Video、Amazon Music Prime、Amazon Photos、Prime Reading等のデジタル特典を受けられます。
一方、ウォルマートのサブスク「ウォルマート+」は、月額12.99ドルで無料配送とガソリン割引などに限られていました。しかしここへきてウォルマートは、パラマウントの動画配信サービスを追加すると発表しました。アマゾンプライムは日本円にして約2000円。ウォルマート+は約1800円。両方加入するには家計負担を感じさせる金額です。ウォルマート+のサービス拡張は、「アマゾンプライムか、それともウォルマート+か」という選択を消費者に突きつけるものになるでしょう。
もちろん、動画配信サービスが勝敗を決するとはいいません。より重要なのは、単一のサービスの優劣をめぐる戦いではなく、エコシステムの戦いだからです。アマゾンがアマゾンプライムによってユーザーのロイヤルティーを高め囲い込みに成功しているように、ウォルマートは「ウォルマート+」の上にさまざまな特典を追加することで同様の効果を期待しているはず。これからは配送関連のサービスのみならず、生活サービス全般をサブスクでカバーできるかどうかの勝負になるに違いありません。
そして、これからさらにサービスが追加され、月額料金の値上がりも予想されることを考えると、あれもこれもとサブスクを契約するというのは考えにくい。最終的にはより顧客中心で、より優れた顧客体験を提供できるほうが、消費者に選ばれるのです。
EC単独でみればアマゾンはやはり強力です。またテクノロジー企業でもあるアマゾンは、AWS等で稼いだ利益をEC小売に投資することも可能であることを考えると、早晩「世界一の小売企業」の座をアマゾンが奪うとの読みが大勢かもしれません。しかしどちらがより顧客中心の小売事業者か、その結論をめぐる戦いは、まだまだ続きそうです。
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