日用品メーカー続々と「脱炭素」に挑む切実な理由 高まる投資家圧力、消費者目線の発信がカギ

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カギとなるのは、サプライヤーがデータを提供してくれるかどうかだ。ユニ・チャームのESG本部長である上田健次氏は、「今お声がけをしているのはグローバルに事業を展開している大手で、技術的には出すことができるだろう」と語る。

こうして集めたデータを検証し、2025年にはいくつかの製品にCO₂排出量を紐付け、消費者にアピールし始める方針だ。

上田氏は「社会課題に対する意識が高いミレニアム世代やZ世代の人々が、消費のイニシアティブを握り始める」と見る。そうなったときに「環境意識が高くない企業の商品は、消費者の選択対象から外されてしまう」(同)という危機感を持っている。

CO₂排出量の算定などに関して10年以上の実績がある環境コンサルティング企業、ウェイストボックスの鈴木修一郎代表は、「かなり近い将来、その商品が本当に環境に配慮して製造されてきたのかどうか、画像認識などで開示され始めるだろう」と語る。

「脱炭素」は消費者の購買理由になるか

とはいえ、脱炭素に関する数値が本当に消費者の購買動機につながるのかについては、疑問の声もある。

花王のESG部門で脱炭素を担当する柴田学部長は、「(現時点で)脱炭素の活動は、消費者の商品選択の理由になっていない」と言う。国内の衣料用洗剤などで花王と競い合うP&Gジャパンも、「少し価格が高くてもサステイナブルな製品を選択する消費者は、ヨーロッパと比べて(日本は)少ない傾向にある」と指摘する。

花王の柴田氏は個別製品のCO₂排出量開示に関して「一般論として今後やらない理由はない」としつつ、「消費者にとって『これがどれだけ私の暮らしに影響を与えるのか』という、そこの腹落ちがもう一つ必要なのではないか」と慎重な見方を示す。

こうした見方に対しユニ・チャームの上田氏は、「単に数字を見せるのではなく、コミュニケーションの仕方が重要だ」と強調する。具体的な消費者へのアプローチ方法について、検討を重ねているという。

脱炭素の取り組みにおいて、投資家と消費者の板挟み状態にある日用品メーカー。消費者に理解されず自社の取り組みを空振りさせないためにも、いかに生活者目線でアプローチできるかが問われている。

伊藤 退助 東洋経済 記者

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いとう たいすけ / Taisuke Ito

日用品業界を担当し、ドラッグストアを真剣な面持ちで歩き回っている。大学時代にはドイツのケルン大学に留学、ドイツ関係のアルバイトも。趣味は水泳と音楽鑑賞。

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