「原油1バレル=再び100ドル超」の懸念は消えない 「景気低迷=低位で安定」という楽観論の死角

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だが、それでも人々は食事や買い物をし、オフィスで仕事を行い、移動のために自動車を運転、電車やバス、飛行機なども利用する。パンデミックが起こった2020年春には、世界的にロックダウン(都市封鎖)が行われたことで、多くの人々は自宅に引きこもり、不要不急の外出を控えた。そのために需要が激減したが、これはやはり特殊な現象と考えておくべきだ。世界的に人口が増えている限り、石油需要も増加を続けるとことになる。

結局、供給面の不安はなかなか解消されない

一方、供給面の状況はどうであろうか。OPEC(石油輸出国機構)とロシアなどの非OPEC産油国で構成される「OPECプラス」は8月3日に開いた会合で、9月から石油生産は日量10万バレル増やすことで合意した。

6月初めに開いた会合では、7月と8月の増産量をそれぞれ前月から日量64.8万バレル引き上げることで合意、それまでより増産のペースを速めることで、2000年4月に合意した日量1000万バレルを大幅に上回る減産分の解消を前倒しで完了する方針を打ち出し、市場はその後の産油国の動向に注目していた。

「日量10万バレル」という、微々たる増産決定は、先にサウジアラビアを訪問し増産を直談判したアメリカのジョー・バイデン大統領の顔をひとまず立てたということなのだろうが、長年の投資不足の影響でOPECの生産余力は大幅に落ち込み、サウジとUAE(アラブ首長国連邦)を除くほとんどの加盟国が生産を増やしたくても増やせないという状況にあることが、引き続き大きな懸念材料として相場の下支え要因になりそうだ。

また供給面の不安材料は、これだけではない。サウジやUAEとイエメンのイスラム武装勢力「フーシ」との対立は続いており、両国の油田などに、いつドローンミサイルの攻撃が行われても不思議ではない。

さらに、季節的には今後大西洋のハリケーン活動が活発化、メキシコ湾に大型のハリケーンが侵入し石油施設が一時的に閉鎖、石油生産が大幅に減少することも考えられる。

また、本来はそういった供給面の非常事態に利用されるべきアメリカの戦略備蓄原油は、中間選挙を見据えて何としてもガソリン価格を引き下げたいバイデン政権の意向により、足元で日量100万バレルというかつてないペースでの放出が続いており、さすがに追加の放出はままならない状況となっている。

またこうした備蓄の放出は10月末までに終了、そのあとは逆に備蓄を再積み増しするための新たな需要が生じることも忘れてはならない。こうした供給面の問題が1つでも現実のものとなれば、市場が大きく反応、一気に買いが集まってくることも十分にありうる。

足元の景気後退や需要の減少に対する懸念は、市場が落ち着きを取り戻すにつれて後退していくだろう。その後は冬場の暖房需要の増加が、新たな買い材料として市場の注目を集めるようになる可能性が高い。

一方で戦略備蓄の放出が予定通り終了すれば、足元の需給は再び逼迫、在庫も取り崩し傾向が強まることになる。年末に向けて相場は再び騰勢を強め、1バレル=100ドルを大きく超える展開が見られるようになるのではないか。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

松本 英毅 NY在住コモディティトレーダー

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まつもと えいき / Eiki Matsumoto

1963年生まれ。音楽家活動のあとアメリカでコモディティートレードの専門家として活動。2004年にコメンテーターとしての活動を開始。現在、「よそうかい.com」代表取締役としてプロ投資家を対象に情報発信中。NYを拠点にアメリカ市場を幅広くウォッチ、原油を中心としたコモディティー市場全般に対する造詣が深い。毎日NY市場が開く前に配信されるデイリーストラテジーレポートでは、推奨トレードのシミュレーションが好結果を残しており、2018年にはそれを基にした商品ファンドを立ち上げ、自らも運用に当たる。ツイッター (@yosoukai) のほか、YouTubeチャンネルでも毎日精力的に情報を配信している。

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