経済財政諮問会議の「ゆるい議論」を許すな 「成長の夢」追い、歳出削減の文字見当たらず

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前掲の内閣府の中長期試算は、名目経済成長率を高めれば、税収が増えるということにも限界があることを示したものである。しかし、それでも、名目成長率を高める方法を探したという。

「インフレ税」という「禁断の果実」には手を出すな

名目成長率を高める方法として、最も手を出してはならない方法は、インフレ率を過度に上げることである。名目成長率は実質成長率とインフレ率の和である。だから、実質成長率が上がらなくても、インフレ率が上がれば名目成長率は上がる。インフレ率を過度に上げても、所得税や法人税や消費税の税収は、税率を上げずとも増える。

例えば、課税所得が330万円の人は、現行の所得税制では23万2500円(=195万×0.05+(330万-195万)×0.1)の所得税を払い、それが税収となる。そこで、物価が10%上がった(1.1倍になった)とする。物価と連動して所得も同じ率で増えたとすると、この人は課税所得が363万円となる。

しかし、現行の所得税制は累進課税となっており、20%の限界税率が適用されるので、この人は所得税を29万8500円(=195万×0.05+(330万-195万)×0.1+(363万-330万)×0.2)払うことになり、それが税収となる。

物価が上がる前の価値で測れば、330万円(=363万円÷1.1)の課税所得に対して、約27.14万円(=29.85万円÷1.1)の所得税を払うことになったのだから、約3.9万円分の増税になったことになる。

この現象は、より低いインフレ率でも同様に起こる。このように、インフレによって税負担が増える現象を、「インフレ税」ともいう。

インフレ税は、インフレ(物価上昇)によって貨幣価値が実質的に目減りすることを通じて、民間の富が政府へ実質的に移されることによる「課税」である。インフレ税が良くない税であることは、経済学にて多くの論文で示されている。

特に問題なのは、インフレ税は誰が実際に税負担を強いられるかを事前に予見できないことである。インフレによって得をする人は、結果的にインフレ税の負担を免れることができ、インフレによって損する人は、結果的にインフレ税の負担を被ることになる。

お金持ちだけがインフレ税を負担することになる訳ではない。お金持ちでもインフレをうまくヘッジできれば負担から免れることができ、貧困層でもインフレ率以下しか所得が増えなければインフレ税の負担が直撃するのである。

そんな税に頼って、基礎的財政収支を黒字化するのはナンセンスである。やはり、歳出削減か増税による税収確保という正攻法で財政健全化を進めなければならない。経済財政諮問会議は、そこから逃げてはならない。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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