私鉄首位奪還へ、近鉄「物流子会社化」期待と不安 事業の多角化は進むが、成長戦略を描けるか

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ただ、こうした対策はコスト削減にはつながるものの、売り上げを増やすわけではない。強力な成長エンジンが必要と判断した近鉄が目を付けたのが、持分法適用関連会社の近鉄エクスプレスの完全子会社化だった。

近鉄エクスプレスは1948年、近畿日本鉄道の国際運輸部門として発足した。1954年に分離して近鉄系の旅行会社、近畿交通社に営業譲渡された。近畿交通社は1955年に近畿日本ツーリストに社名変更。そして、1970年に近畿日本ツーリストから航空貨物部門が分離独立して発足したのが近鉄航空貨物。現在の近鉄エクスプレスである。

会社独立によって経営の自由度が高まり、積極的に海外へ展開。2015年にはシンガポールの物流会社APLロジスティクスを買収して業容を拡大した。今や国際航空貨物輸送量では日本通運に次ぐ第2位だ。

とりわけ近年は、半導体関連など航空貨物の需要が急増していることに加え、コロナ禍による旅客便の運休・減便で旅客便に設けられた航空貨物スペースが激減。さらに海上輸送もコンテナ不足や人員不足でコンテナ船物流が混乱している。需要増と供給量の減少が輸送運賃の高騰につながり、近鉄エクスプレスの2021年度決算は売上高9804億円、営業利益624億円という空前の好決算となった。

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近鉄GHDは近鉄エクスプレス株式の44.1%を保有している。連結子会社ではなく持分法適用関連会社であり、近鉄GHDの決算では近鉄エクスプレスの利益は営業利益ではなく、営業外利益に反映される。2021年度の近鉄GHDの決算では営業利益は38億円にとどまったが、経常利益は306億円まで増えた。その理由は近鉄エクスプレスの持分益が営業外利益を押し上げたからにほかならない。

もし、近鉄エクスプレスが連結対象なら2021年度に624億円の営業利益を丸ごと自社の利益として計上できたはずだ。「近鉄エクスプレスの成長力を近鉄グループに取り込みたい」と近鉄GHDの経営陣が考えるのも当然だ。

近鉄エクスプレスの役員構成を見ると8人の取締役のうち、会長の植田和保氏は近鉄GHDの元副社長。また、近鉄GHDの小林哲也CEOが取締役に名を連ねる。つまり、8人の取締役のうち近畿日本鉄道出身者は2人ということになる。昨年12月から近鉄エクスプレスは近鉄GHDと協議が始め、今年5月にTOBに賛同する旨の声明を出していた。

業績が低迷するある大手私鉄の幹部は、「近鉄さんは手を伸ばせば届くところに良い会社があった。当社もM&Aで成長軌道に乗せられればよいが、そんなうまい会社はなかなか見つからない」と嘆息する。

近鉄GHDの担当者はTOBの狙いをいくつも挙げている。「成長ドライバーの拡充」「事業リスクの分散・安定化」「新たなグループガバナンスの構築」「人材の育成推進」「企業風土の変革」といったことだ。

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