私鉄首位奪還へ、近鉄「物流子会社化」期待と不安 事業の多角化は進むが、成長戦略を描けるか

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近鉄エクスプレスが物流業界で大きく成長しているのは前述のとおり。また、鉄道、ホテル、百貨店など一般消費者向けの事業が多い近鉄GHDはコロナ禍で大きなダメージを受けたが、近鉄エクスプレスは法人向けが主体であることに加え、コロナ禍で逆に利益を増やした。このため、近鉄エクスプレスをグループに取り込めば事業リスクの分散につながり、経営が安定化する。

また、近鉄GHDとは異なる企業カルチャーを社内に取り込むことで新たなグループガバナンスの構築につながり、人材交流により企業風土も変革できるという。

このように近鉄GHDはメリットの多さを強調するが、不安要素がないわけではない。まず投資に対するリターンだ。今回のTOBで近鉄エクスプレス株の約48%を取得したが、その取得価格は1443億円。内部留保ではなく金融機関からのファイナンスによって調達した。

TOBを発表した5月13日の終値に約4割のプレミアムを上乗せして株式を買い付けた。株式市場からは「プレミアムが高すぎる」という声も上がったが、一方で近鉄GHDは近鉄エクスプレスの株式3456万株を新たに取得するため、「1株当たり利益から逆算すると、1443億円の投資に対して単年度で200億円の利益が得られる計算。投資としてはかなりいい」(前出の大手私鉄幹部)という指摘もある。

国際物流を取り巻く環境に不安要素も

むろん、その計算は近鉄エクスプレスが将来にわたって現行レベルの利益を生み出すことで初めて成り立つ。問題は、逼迫する航空貨物の需給が落ち着けば、現在の運賃高騰も一服するということだ。実際、近鉄エクスプレスが発表した2022年度の業績予想は売上高9445億円、営業利益505億円と減収減益の予想だ。米中対立、ロシア・ウクライナ情勢、世界的なインフレーションの進行など国際物流を取り巻く環境は不透明要素が多い。

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これに対して、近鉄GHDは2022年度に引き続き2023年度も増収増益となる可能性が高い。近鉄エクスプレスの連結対象期間が1年間となることに加え、国に申請中の鉄道運賃値上げが実現すれば運賃収入が15%近く増えるからだ。

では、2024年度以降にどのような成長戦略を描くのか。成長著しいアジア圏で業績を大きく伸ばした近鉄エクスプレスの企業風土が近鉄グループに浸透すれば新たなビジネスチャンスが生まれるかもしれないが、まだ何も見えてこない。コロナ禍、需給バランスの混乱といった不安定要素がある程度落ち着きを見せた段階で、事業構造が大きく変わる新たな近鉄GHDの成長戦略を広く示す必要がある。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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