「国語力」がある子とない子の「家庭」の決定的な差 なぜ子どもの「国語力格差」は生まれるのか

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ごく普通の子どもにも、似たようなことが当てはまります。

学校のクラスで人間関係が悪化したときに「もう死にたい!」と考えるのではなく、なぜそうなったのか、自分はどうしたいのか、そのためには誰にどう伝えればいいのかを論理的に考えられれば、学校生活はずいぶん楽になるでしょう。

社会に出てからも同じで、ビジネスにおいて、家族関係において、地域住民との関係において、適切な言葉の使い方が、物事を円滑に進めることにつながる。逆に言えば、それができなければ多くのところでつまずくことになりかねません。

国語力をめぐる深刻な「家庭格差」

私は『ルポ 誰が国語力を殺すのか』という本で、現代における国語力の問題に警笛を鳴らしました。

石井光太(いしい・こうた)/作家。1977年東京生まれ。国内外の貧困、災害、事件などをテーマに取材・執筆活動を行う。2021年『こどもホスピスの奇跡 短い人生の「最期」をつくる』で新潮ドキュメント賞を受賞(撮影:平松市聖)

文科省は国語力を単なる読解力ではなく、語彙をベースにして情緒力、想像力、論理的思考を駆使して上手に生きていくための生きる力としています。

たとえれば、社会は荒海のようなところです。国語力は、その荒海を渡るために必要な「心の船」です。語彙をベースに情緒力、想像力、論理的思考をフル回転させることで初めて、複雑な社会を生き抜くことができる。

昔の社会は今ほど複雑ではなく、国語力は自然と身につけるものでした。読書によって語彙力・読解力を鍛え、自然の中での遊びを通して情緒力を鍛え、親族や他者と交わる中で常識や想像力を磨く。そして学校で年齢に合った論理的思考の訓練をしました。

しかし今は、それが非常に難しい時代になっています。格差拡大の中で、本を読む機会がほとんどない子や、スマホやゲーム漬けで育てられる子が急増しました。地域間交流が減り、人間関係も限定的。外国籍で日本語を上手に操れない親、精神疾患や依存症で子どもと適切な対話をする余裕さえない親は数百万人に及びます。

こうしたことから、親が意識を持って国語力を磨かせようとする家庭と、そうでない家庭では、育った子どもの国語力に明確な差が現れます。私はこれを国語力をめぐる「家庭格差」と考えています。

家庭格差の上層の子どもは豊饒な言語空間で育ち、豊かな想像、思考、表現が可能になり、複雑な社会を生きる力を身につけることができます。グローバリゼーションの中を生き抜ける若者は、そういう者たちです。

一方、下層の子どもは、適切な言葉が身についていないためにさまざまなところで壁にぶつかります。現代を象徴する問題――コミュ障、陰謀論、ヘイト、孤立は、そういったところで起きています。

今の子どもたちが直面しているのは、こうした生きる力としての国語力の脆弱さなのです。

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