「国語力」がある子とない子の「家庭」の決定的な差 なぜ子どもの「国語力格差」は生まれるのか

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現在、子どもの国語力に危機感を抱き、それを伸ばそうとしている先進的な私学は、こうした研究成果を踏まえて、それを校内環境や授業に盛り込んでいます。

一例を挙げると、広島県のなぎさ公園小学校は、学校の廊下のスペースに、小説や絵本がぎっしりつまった本棚があって、たくさんの展示パネルには生徒たちの絵画、書道、自由研究、手紙、将来の夢などが掲示されています。つまり、教室の外がまるで図書室や美術館のようになっていて、休み時間には好奇心を刺激された子どもたちが自然にそれらに触れられるようになっているのです。

つねに子どもが本や美術に接することができる工夫がされているうえ、子ども同士がいいと思った本を推薦し合える「読書郵便」などの仕組みも導入されていて、本の感想を互いに伝え合うことが習慣化されています。

さらに同校では、校庭にビオトープをつくって、子どもたちが自然の中で自由に遊び、学べる環境を整えています。校内の一角で田植えを体験したり、キャンプ、干潟観察、山での雪遊びなど、本物の自然に触れる体験型学習に力を入れている。

同校の校長の渡邊あけみさんは、「体験によって五感を刺激された子は感じたことを自分の言葉で語ろうとする」と語ります。「感じることが、表現への衝動を生み、言葉を豊かにしていく」という。

つまり、言葉の学びがリアルな体験やそこから生まれる感情と有機的に結びつき、同校の目指す〈社会で生きていくための人間的な力〉となるよう考え抜かれた教育になっているのです。

ほかにも本質的な国語力を育むヒントとなる、すぐれた取り組みの実例については、『ルポ 誰が国語力を殺すのか』に詳しく紹介したので、そちらを読んでいただければ嬉しいです。

新しい教育をムダにしないために

ここで私が言いたいのは、子どもたちの国語力を生かすも殺すも、家庭や学校の取り組み次第ということです。

グローバリゼーションの中で、今の若者はあまたの文化と価値が混在する社会の中で生きることを余儀なくされています。そこではこれまで以上に豊かな教養力や、高度なコミュニケーション力、そして多角的な視点で課題を解決していく力が求められます。

そのため、国は外国語、プログラミング、金融、起業家精神など次々と新しい教育を打ち出しています。

『ルポ 誰が国語力を殺すのか』(文藝春秋)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

新しい教育がすべてムダだとは思いません。でも、それらを生かすも殺すも、すべては国語力というすべてのベースとなる力があるかどうかなのです。

それがあるから、外国語も、プログラミングも意味をなす。逆に言えば、国語力なくしては、あらゆることが砂上の楼閣になりかねません。

今という時代の中で、子どもたちの国語力がどのような状態になっているのか。そして子どもたちが10年後、20年後に社会で生き抜くために必要な国語力を鍛えるには何をすべきなのか。

かつてないほど複雑な時代だからこそ、私たちは生きるうえでの根源的な力について考えるべきではないでしょうか。

石井 光太 作家

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いしい こうた / Kouta Ishii

1977年東京生まれ。国内外の貧困、災害、事件などをテーマに取材・執筆活動を行う。著書に『物乞う仏陀』『絶対貧困 世界リアル貧困学講義』『遺体 震災、津波の果てに』『「鬼畜」の家 わが子を殺す親たち』『浮浪児1945- 戦争が生んだ子どもたち』『原爆 広島を復興させた人びと』『43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層』『本当の貧困の話をしよう 未来を変える方程式』『格差と分断の社会地図 16歳からの〈日本のリアル〉』など多数。2021年『こどもホスピスの奇跡 短い人生の「最期」をつくる』で新潮ドキュメント賞を受賞。

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