「オンライン」が脳に与える知られざるダメージ 情報伝達はできても「感情の共感」は難しい
小中学生の1人1台端末は、2022年3月末時点で全国1785自治体の98.5%が整備を完了したとされます。財界や産業界は大歓迎で、高校でも急げ、ソフトウェアやコンテンツの充実も必要、と発破をかけています。親たちは、何万円かのタブレットをわが子専用で使えるのであれば、買わなくて済むから結構なこと、くらいに思っているのかもしれません。
しかし、私は、GIGAスクール構想で1人1台デジタル端末を配り、ネットにつないで教育に使うことで、子どもたちにどんな利益があるかという〝エビデンス〟が一切ないことが大問題だ、と考えています。
コロナ対策では「エビデンス、エビデンス」と叫ばれるのに、なぜ、日本の将来にとってきわめて重要な教育に関する構想が、何のエビデンスもないまま進んでいるのでしょうか。
私にいわせれば、いま学校でおこなわれているのは、税金を使った「無謀な社会実験」、子どもたちへの「悪影響を確認する人体実験」です。
文科省は、ハード面の予算をつけた以外は地方自治体に丸投げで、教育現場は1人1台端末だけが「天から降ってきた」状態です。教員のスキルも、使い方もバラバラ。親が同意書にサインのうえタブレットなどの貸し出しを受け、子どもは家に持ち帰れるようですが、子どもが勉強だけに使うとは到底思えません。
読解・数学・理科では成績向上に影響がない
エビデンスがないと申し上げましたが、ICTを教育に導入したことがうまくいかなかったというエビデンスは、だいぶ前から世界中で報告されています。OECD(経済協力開発機構)がおこなう学習到達度調査(PISA)は2015年、72カ国・地域の約54万人を対象として、コンピュータの利用が生徒の成績にどう影響しているか調べました。結果はこうです。
● ICTを授業であまり使わなくなった国では、ICTを平均的に使う国ぐによりも読解力が劇的に向上した。
● 学校にコンピュータの数が多い国ほど、数学の成績が下がる。
● 学校でコンピュータを閲覧する時間が長いほど、読解力の成績が下がる。
スマホを使えば電話番号を忘れる。カーナビを使えば地図の読み方を忘れる。キーボード入力をすると漢字が書けなくなる。──使わなければ、脳の機能はどんどん失われていきます。実際に、スマホを始めれば成績が下がり、手放せば成績が上がるというデータも明らかになっています。ICTを多用する公教育がこのまま広がれば、9割方の子どもたちが自分で考える力を失っても、何の不思議もありません。
文部科学省の関係者や、彼らにアドバイスをしている専門家のみなさんには、なぜ多額の予算を投じてこのようなことをおこなうのか、私の異議申し立てに対して説得力あるエビデンスを示し、反論してほしい、と願っています。
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