AGCが総合職の月給3万円アップに踏み切る舞台裏 「自信の表れ」も市場評価との間にギャップ

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だが、世界的に温暖化問題が大きくクローズアップされるようになり、中国政府も国内での対応に乗り出さざるを得なくなった。中国政府は2021年前半までに環境規制を強化し、カーバイド法による製造には制約がかかるようになった。これによって中国企業からの東南アジア市場への苛性ソーダや塩ビ樹脂の流入が止まり、需給が引き締まったことで、市況が急騰した。

こうした事情から、AGCは事業環境が恒常的に変わったと読む。上半期の決算会見でも平井良典社長は、「これからも一定の市況変動はあるが、以前の水準には戻らず高水準が継続するとみている。非常に強固な高収益基盤を確立してきている」と述べた。足元の市況が出来過ぎで多少の軟化はあるにしても、来期以降も大崩れはないという分析だ。

松永氏は「賃上げは、業績の支えがなければできない。昨年の実績が一過性のものではなく、好業績がこれからも続いていくという自信の裏打ちがあってこそのものだ」と語る。

株価アップへの努力が必要

ただ、AGCの中長期的な業績への自信や、人材投資の強化に対し、市場評価は十分についてきてはいない。株価は昨年度から上昇しているものの、PBR(株価純資産倍率)は解散価値の1倍を大きく割り込み、0.7倍台で推移する。

平井社長は、「現時点での株式市場からの評価には満足していない。現在のレベルの業績を安定的に出していくとともに、株式市場に対して当社の戦略を丁寧に説明していく必要があると感じている」と話す。

不可逆的な人件費アップとなる総合職の賃金の大幅な引き上げは、AGCの自信が決して上辺の言葉だけではない、行動が伴った自社評価の表れも見て取れる。それだけに、競合企業との賃金ギャップを埋めた後は、他社評価(市場評価)とのギャップを埋めていく努力が求められる。

奥田 貫 東洋経済 記者

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おくだ とおる / Toru Okuda

神奈川県横浜市出身。横浜緑ヶ丘高校、早稲田大学法学部卒業後、朝日新聞社に入り経済部で民間企業や省庁などの取材を担当。2018年1月に東洋経済新報社に入社。

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