AGCが総合職の月給3万円アップに踏み切る舞台裏 「自信の表れ」も市場評価との間にギャップ

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他方で、市場に成長性があり、安定性も期待できる半導体関連などのエレクトロニクスや医薬関連などのライフサイエンスといった戦略事業に投資を回す方向に舵を切っている。

人材獲得戦略のシフトチェンジも必然だった。松永氏は「戦略事業の業界で競合する企業の賃金水準のデータを分析して比較すると、当社は見劣りしていた。ギャップを埋める必要があった」と語る。その結果として、ベアと合わせて月例賃金3万円以上の引き上げを決めた。

AGCは前年の2021年にも総合職の月例賃金を一律で1万円増やす賃金改善を実施している。この2年で、総合職の月例賃金を4万円も高くしたことになる。

とはいえ、業績の好不調に合わせて調整しやすい賞与と違い、月例賃金は一度上げると、業績が暗転しても下げることは困難だ。それでもAGCが異例の月例賃金の大幅アップに踏み切ったのには、他にも理由がある。

市場変わる化学品が好業績を牽引

直近の業績は非常に好調だ。2021年12月期の営業利益は、前年度比2.7倍の2061億円。2000億円の大台を突破するのは、過去最高益の2010年12月期(2292億円)以来、11年ぶりだ。

2022年12月期も快走が続く。AGCが8月2日に発表した上半期の実績は、営業利益が前年同期比21.1%増の1153億円で、過去最高だった。通期の業績予想も上方修正し、営業利益は過去最高を更新する2300億円を計画する。

AGCの営業利益は、ここ数年よくても1200億円前後だった。それが2021年12月期から営業利益の水準が一気に跳ね上がった状態だ。牽引役は、同期から急伸した化学品だ。東南アジアでそれぞれ50%超のシェアを持つ、苛性ソーダや塩化ビニル樹脂の市況が急上昇していることが、業績を大きく押し上げている。

ただし、市況は需要の伸縮に加えて、競合相手の供給量にも大きく左右される。一般的にはみずもの的な要素があるが、AGCは足元の好業績をフロック(たまたま)ではないと考えている。その根拠は、市況が上がった要因にある。

東南アジアでは以前まで、中国企業が製造した苛性ソーダや塩ビ樹脂が市場に流入していた。AGCが「電解法」という製造方法で生産するのに対し、中国企業は、石炭を使い温室効果ガスを多く排出する「カーバイド法」と呼ばれる製造方法を主に採る。

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