トンネル入口で「祈願」、リニア新幹線の最新状況 多治見で着工、生物多様性問題は「道筋見えた」

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これまでのリニアのトンネル工事における安全祈願式は、工事ヤード内に臨時に組み立てられたテント内で行われてきたが、今回は本線トンネルに向かう斜坑の入り口が会場だ。臨時テントではなく、斜坑入り口に設けられた巨大な防音ハウスがそのまま会場で使われる。式典に出席したJR東海の加藤均執行役員も「私も初めての経験」と驚きを隠さなかった。

リニアトンネル工事
祭壇の奥に口を開けたトンネル(記者撮影)

「近くに民家がある場合は、トンネル工事の騒音が漏れないようにトンネル入り口に防音ハウスを設けることがある。さらに、防音ハウスがあってもトンネル入り口の前に平らなスペースを十分に確保できないと安全祈願式を行うのは難しい。今回は非常に珍しいケース」と、JR東海の工事担当者が説明する。

安全祈願式が始まった。儀式の途中で神主が祭壇の奥に姿を消した。いつもなら祭壇の前で行われる儀式を、おそらくトンネル入り口のすぐそばで行っているのだろう。姿が見えないだけに神秘的に感じられた。

発生土はベルトコンベアで運搬

工事ヤードには高さ20mの位置にベルトコンベアがそびえる。今後、工事が本格的に始まると、掘削作業による発生土は土砂ピットに貯められ自然由来の重金属など含まれていないかチェック。基準内に収まっている発生土はベルトコンベアを使って工事ヤードから約700m離れた民間の残土処理場に運ばれる。通常なら発生土はトラックで運ばれるが、トラックが道路を頻繁に走ると騒音が出るほか交通事故の危険もある。

「なるべくトラックは使わないでほしい」という市の要望を受けて、ベルトコンベアによる運搬方式が採用された。そう考えると、工事ヤードをこの場所に決めた理由は、トンネル掘削面だけでなく、残土処理場に近いことも挙げられる。基準値を超えた発生土はトラックで隣の可児市にある汚染土壌処理会社に運ばれる。

市にとっては発生土の移送だけでなく、工事の安全も気掛かりな点だ。昨年10月27日には同じ岐阜県の中津川市で掘削中のトンネルで、地山が崩れて作業員2人が死傷する事故が起きている。安全祈願式終了後、挨拶に立った多治見市の古川雅典市長は、JR東海と施工業者に対して「徹底した情報公開を行い、トラブルがあれば直ちに工事を止めるとともに、地元に環境負荷をかけないでほしい」と注文を付けたうえで、「安全第一。周囲の声を聞いてきちんと工事を終わらせてほしい」と要望した。その表情に笑顔はなかった。

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