「心は売っても魂は売らない」ファンキーな土着 「逃れられない病」を土臭く泥臭く生きていく

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「奴隷」にならない生き方の作法

土着に含まれる動的なイメージを担っているのは、ソウルフルという言葉に表されているように、その土地が持つ霊性です。その土地固有の霊性のことを「ゲニウス・ロキ」といいます。土着のなかにはこのゲニウス・ロキが低音を響かせて踊っている、そのような動的な意味合いを込めています。そういう意味で、2つの原理を行ったり来たりしながら生きていくとは、土臭く、泥臭く、決してスマートではないけれど、「なんとかかんとか生きていく」ことを意味します。ミュージシャンの山下達郎は、同じくミュージシャンのサンボマスター山口隆との対談で以下のように述べています。

「心は売っても魂は売らない」ーそれがこの商売の根幹なの。すべての芸能、すべてのコマーシャリズムというのは、心のどこかのパートを売らなければならない。問題はその中でいかに音楽を作る上でのパッションや真実をキープできるか。ただの奴隷(スレーヴ)じゃなくて。モノを作るというのは、常にそういう問いかけがある。
(山口隆『叱り叱られ』幻冬舎、2008年、19頁)

これだけ資本主義が社会に浸透した現代では誰しもが商売をする、つまり商品を売ることを求められます。

『彼岸の図書館: ぼくたちの「移住」のかたち 』(夕書房)。(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

決してミュージシャンでなくても、特に第三次産業に従事する人びとの多くは木を切り出したり、魚を獲ったり、製品を作ったりするのではなく、高い計算能力やコミュニケーション能力を有することを要求され、自分を商品として売ることが社会人の必須のスキルに挙げられます。そのような意味で、ミュージシャンではなくとも山下の言葉にはとても大切なものが含まれていることがわかるかと思います。

山下のいう魂こそ、ぼくのいう土着です。土着は人間の尊厳に関わります。だからそれを売ると奴隷になってしまう。奴隷とは「1つの原理で生きていく」ことを意味します。尊厳を失わず、魂という土着を保ちながら生きていくために。そのためには「心は売っても魂は売らない」ような、2つの原理で生きていく土着の作法を身につける必要があります。まずは現代社会を駆動する資本の原理とは異なる、もう1つの原理に気づくこと。それは自分にとっての「逃れられない病」が教えてくれます。土着は病、障害、老い、生理現象のように、社会的ビハインドとして表れます。でもそれを排除しないこと。それが土着的に生きていく第一歩です。

青木 真兵 「人文系私設図書館ルチャ・リブロ」キュレーター、古代地中海史研究者、社会福祉士

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あおき しんぺい / Simpei Aoki

1983年生まれ、埼玉県浦和市に育つ。「人文系私設図書館ルチャ・リブロ」キュレーター。古代地中海史(フェニキア・カルタゴ)研究者。博士(文学)。社会福祉士。2014年より実験的ネットラジオ「オムライスラヂオ」の配信をライフワークとしている。2016年より奈良県東吉野村に移住し自宅を私設図書館として開きつつ、現在はユース世代への支援事業に従事しながら執筆活動などを行なっている。著書に『手づくりのアジール──土着の知が生まれるところ』(晶文社)、妻・青木海青子との共著『彼岸の図書館──ぼくたちの「移住」のかたち』(夕書房)、『山學ノオト』シリーズ(エイチアンドエスカンパニー)などがある。

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