「おもちゃとジェンダー」老舗メーカーが挑む難題 子どもが「自らの好奇心に従えない」複雑な要因

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――なぜ売れなかったのでしょう?

ねじハピは「かわいい×DIY」だからこそ売れた。ピンクにしたことで、女の子にとって「私のためのものだ」という意識を持ちやすく、手に取りやすかったのだろうと思う。この「手に取ってもらう」という部分にすでに大きなハードルがあり、背景には、子ども自身が自分の好奇心に100%従えていないという課題がある。

例えば小学校低学年の私の長男と運動靴を買いに行った際、店頭で真っ先にピンクでキラキラした靴に目を止めたことがあった。すると店員さんがすかさず、「それは女の子用だよ」と話しかけてきて。それ以来彼はずっと「ピンクは女の子のだ」と言うようになった。

店員さんに悪気はなかったはずだが、こういうバイアスはどこかでかかってしまうものだ。子どもが本当に興味があること、親や周りの大人に疑問符をつけられると委縮してしまう。

ほかにも、(子どもを観察する中で)例えばお人形のお世話をする遊びに熱を上げていた男の子が、ある年齢からそれを恥ずかしがったり、隠れてするようになったり、ということがよくある。

かつて「ぽぽちゃん」のCMに男の子が遊んでいる様子を起用したこともあったが、(購買動向への)反応はあまりよくなかった。ジェンダーレスといっても、単に商品デザインやマーケティングのクリエイティブで男女の分け隔てをなくすだけでは、ヒットは生まれない。

「男尊女卑」の感覚がすでに

――大人だけでなく、幼稚園や保育園で同年代の子どもとかかわる中で、子どもは「こうあるべき」という基準を内面化してしまうのですね。

桐渕真人(きりぶち・まさと)/1979年生まれ。2005年、当社入社。2016年、自転車事業部長就任。2016年、執行役就任。2017年、取締役兼執行役就任。2019年、取締役兼代表執行役就任(撮影:今井康一)

しかも、男の子遊びとされるものに女の子が手を出すハードルより、女の子遊びとされるものに男の子が手を出すハードルのほうが圧倒的に高いという傾向がみられ、”男尊女卑”的な感覚がこんな小さな子どもにすでに身についてしまっているのか、と驚く。

ジェンダーレスな商品を売るのが難しいのは、流通側の事情もある。商品の買い付けを行うバイヤーや陳列棚が、実質的に男児・女児向け玩具で分かれているケースはまだまだ多い。ジェンダーレス化した商品を量産しても、売るためにはさまざまなハードルがあるということだ。

――一筋縄ではいかない課題ですね。

今ようやく、日本の玩具業界でもジェンダーバイアスを何とかしようという動きは出始めている。当社として次はどのようなステップを踏んでこのテーマに取り組んでいくか、改めて考えているところだ。

男女の問題に限らず、また子どもに限らず、好奇心を丸出しにして「私はこれが好きなんです」「これをやりたいんです」と言いづらい世の中になっていると、日々気づかされる。それなのに、大人になって新卒採用の試験などでは「好奇心が大事」と言われる。教育や生活の実態と合っていない感がある。

玩具は子どもたちが人生のごく最初のほうに触れて卒業していくもの。好奇心のままに遊べるよう、メーカーとしてできることをしていきたい。

武山 隼大 東洋経済 記者

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たけやま はやた / Hayata Takeyama

岐阜県出身。東京外国語大学国際社会学部モンゴル語専攻卒。在学中に西モンゴル・ホブド大学に留学。2021年東洋経済新報社に入社し、現在ゲーム・玩具業界を担当。

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