「缶の日本酒」で世界狙うベンチャー企業の正体 「客が自分で封を開けて飲める」というメリット

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ただ、実は缶の日本酒じたいはそう珍しいものではない。ちょうど50年前、コンビニの陳列棚でもおなじみの「ふなぐち菊水一番しぼり」が発売されている。菊水のホームページには、非加熱でデリケートな生原酒を市場に出すべく、試行錯誤を重ねてアルミ缶入りの商品を開発したとある。なお、コロナ禍ではキャンプブームがヒートアップしたが、これに乗じて缶入りの日本酒を出している各メーカーが訴求を強める動きも見られている。

小ロット充填機のレンタルサービス

このように、容器としての利便性が高く品質保持の機能も優れる缶の日本酒。しかし生産量の少ない酒蔵では缶の充填設備に対するハードルが高く、これまで大々的に普及することはなかった。

ここで、「一合缶」プロジェクトの陰の主役「詰太郎」の登場となる。詰太郎とは東洋製罐開発による小ロット充填機のレンタルサービスだ。プロジェクトでは、このシステムを採用することにより、小さな酒蔵の参加を可能としたわけだ。

Agnaviでは埼玉の自社工場に充填設備を設置。日本酒1000リットル、缶にして約5500本という小ロットの単位で1缶あたり数十円〜130円の充填費で酒蔵から委託を受ける。酒造にとっては挑戦しやすい量だ。またさまざまな酒蔵の日本酒詰め合わせという付加価値にもつながる。

今回、プロジェクトに参加する酒造、鳴海醸造店にも話を聞いた。江戸時代から200年以上続く酒造で、「菊乃井」などの特別純米酒が看板商品。年間生産量は1升瓶で2万5000本ほどで、販売先は主に青森県内の問屋や日本酒専門酒屋だ。

当主の鳴海信宏氏にプロジェクト参加のきっかけを話してもらった。

鳴海醸造店。青森県産の米と酵母、南八甲田山の雪解け水に端を発する伏流水を原料に昔ながらの酒造りを続けている(写真:鳴海醸造店)

「コロナで飲食店や観光が落ち込み、地元の会合などがなくなったため、売り上げが30%ほどに落ち込みました。今は少しずつ増えているところですが、売り上げの20%が土産物用途なので、観光が回復していない今はまだ厳しいですね。実は長男が玄さんの大学の後輩にあたり、その縁からAgnaviさんのプロジェクトに参加しないかと誘いをいただきました。ちょうどお酒の在庫も残っていて『どう売ろうか』と思案していたとき。アルミ缶は確かに軽いし割れない。光も通さないので需要に適しているとは感じましたね。また量が多いと心配ですが、小ロットなので、試しに参加してみることにしました」(鳴海氏)

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