当然ながら、テレビ局にはさまざまな撮影ノウハウが蓄積されている。けれどこの蓄積は、ともすると、慣習の上に乗っかって「なんとなくテレビをつくる」状況を生む。また、せっかくのノウハウも、バラエティーならバラエティー内、ドラマならドラマ内と、“タコツボ化”した蓄積になっている場合が多々あるという。
だが、バラエティーのノウハウがドラマに使えたり、その逆がいい結果を生んだりすることもある。栗原さんはいわゆる“当たり前”のやり方にこだわらず、一度ゼロから自分の頭で徹底的に考え、目の前の番組づくりにおける最善の方法を模索する。結果が視聴率として現れると、周りもその利点に気づく。そんな好循環ができていたのではないだろうか。
そんな代謝請負人の栗原さんを突き動かしているのは、とめどなく溢れ出るモチベーションなのではないだろうか。象徴的なのは、入社後しばらく続いた壮絶な下積み時代だ。
「¥マネーの虎」はいかにして生まれたか
「僕が(日本テレビに)入った頃は、局にスタープレイヤーがたくさんいて視聴率がよく、全然番組が終了にならないんです。そういうときに入ったので、企画書を出しても通らない。今でも年間30〜40本の企画書を書くのがクセになったくらいで、若手にも驚かれるけど、当時はとにかく、早く上の人が引退してくれないかな……と思っていました」
なかなか打席が回って来ない状況が延々と続く中、来たチャンスを逃すまいと、栗原さんは必死に企画を出し続けた。その結果、『¥マネーの虎』の企画が通り、番組枠を勝ち取ることができたのだ。AD(アシスタントディレクター)としての下積みも含め、入社から9年目のことである。
そしてこの話には後日談がある。「だいぶ経ってから、そのときの上司に『何で僕の企画が通ったんですか?』と聞いてみたら、『正直プレゼンでは何を言っているのかよくわからなかったけど、お前がいちばんやりたそうだったから』って言われました。別に企画が面白かったわけではないと(笑)」
今となっては、栗原さんもその上司の気持ちがわかるという。「どんな新人だろうがベテランだろうが、モチベーションの高いやつのほうがいい。役者もスタッフも同じ。自分のチームでも、いちばん『やりたい!』という気持ちが伝わってくるやつにチャンスをあげたいと思っています」
『¥マネーの虎』のフォーマットは海外でも人気が高く、今なお、海外27カ国で現地版が制作・放送されている。2014年8月、アメリカ版『¥マネーの虎』(SHARK TANK)がアメリカ最大のテレビ祭、エミー賞のCREATIVE ARTS EMMY AWARDSリアリティ番組部門(OUTSTANDING STRUCTURED REALITY PROGRAM部門)で「最優秀作品賞」を受賞している。
番組づくりに対し、これほどまでの大きなモチベーションを持つ栗原さん。さぞ「テレビ愛」が強かったのだろうと思いきや、もともと番組をつくりたかったわけでもなければ、テレビ局に勤めたかったわけでもなく、むしろ学生時代にはまったく別の夢を持っていたというから驚きだ。
大学で貿易を専攻した栗原さん、もともとの志望業界は商社だった。それがかなわず、番組制作に携わりたいというよりは、いろいろな人と出会えそうな業界ということでテレビ局に就職。当初の配属希望は報道だったが、結局これもかなわなかった。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら