現場で医師が救命「ドクターヘリ」その重大な任務 銃撃された安倍元首相の搬送時にも出動した

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ヘリはEC135(写真:HEM-Net提供)

実際、それを裏付ける調査結果もある。

東海大学医学部救命救急医学の猪口貞樹氏らの1999年の研究「ドクターヘリによる初期治療までの時間短縮効果」では、「救急車による搬送が10分以上かかる場合は、ドクターヘリのほうが初期治療を開始するのが早い」ことが報告されている。

重大な事故によって心肺停止に至るようなケースでは、時間が経てば経つほど救命の可能性は急激に低下する。だからこそ1秒でも早い初期治療が必要で、早ければ早いほど救命率は上がるというわけだ。

また、交通事故で搬送された患者の入院期間について、救急車とドクターヘリを比較した別の研究報告では、救急車の場合は39.0日であるのに対し、ドクターヘリの場合は21.3日と、18日間も短縮されたことがわかっている。早期に治療を始められたことで重症化を防ぎ、退院も早めているのだ。

こうしたデータを踏まえると、ドクターヘリが救急医療に果たす効果がいかに大きいかがよくわかる。

実は、このメリットを全国に行き渡らせるため、ドクターヘリ特別措置法では「全国的に整備することを目標とするものとする」(第3条第1項)と定められている。

今年、全都道府県にドクターヘリが導入されたことについて、篠田理事長は「普及を目指してきたHEM-Netとしては、目標が約20年で達成できたことはうれしい」と話す。

出動要請から搬送までの流れは…

一般的なドクターヘリ出動の流れ(要請から搬送まで)はどうなっているのだろうか。シミュレーションしてみたい。

ある場所で交通事故が起こったとする。現場から119番通報が入ると、通報を受けた消防本部指令室は、まず救急車を事故現場に向かわせる。それとともに、通報内容(119番覚知キーワード)や出動した救急隊の報告(救急隊接触時判断)、主にこの2つの点(詳細は後述)からドクターヘリを出動させるかどうかを判断し、基地病院に出動を要請する。

出動要請を受けたフライドドクターとフライトナースはヘリに乗り込み、現地へ。ヘリが着陸できるランデブーポイントに到着したら患者を搬送してきた救急車と合流し、ヘリに搭載された医療機器や医薬品などを使って、救急車内で負傷者や重症者の初期治療にあたる。医療機関に搬送する飛行中も、ヘリの機内で治療を続ける。

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