西九州新幹線、ライバル「高速バス」が歓迎の理由 注目度上昇で福岡―長崎間「九州号」に追い風か

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実際、九州急行バスは新幹線開業をどう“迎え撃つ”のか。同社取締役の吉田亮営業本部長は「長崎自体が日本全国から注目されることは当社にとっても喜ばしい。福岡と長崎の移動需要が増えれば、高速バスを選んでいただくチャンスも増えるのでは」と前向きにみる。

実際に、新幹線開業によって高速バスの利用者も増えた例がある。九州新幹線が全通した2011年、福岡―熊本間の高速バス「ひのくに号」は1日100往復から108往復に増便。運行会社の西鉄と九州産交バスは当時の発表で、「九州新幹線の全線開業以降、従来以上に多くのお客さまにご利用いただいており、便によっては、満席のため後続バスへのご乗車をお客さまへお願いするケースも発生しています」と増便の理由を説明している。

長崎駅前に到着した大波止経由の「九州号」。右奥が県営バスターミナル(記者撮影)

一方、開業当初について吉田本部長は「九州は新しいものを取り込みながら発展してきた土地なのでバス利用者も一時的に新幹線に流れるかもしれない」と指摘する。現時点での新幹線対策については「きめ細かなサービスと安全運行の徹底」とバス会社らしい堅実な運用を述べるにとどめており、対決姿勢を打ち出しているわけではなさそうだ。

高速バス各社は鉄道と同様、新型コロナウイルス感染拡大の長期化による乗客減で取り巻く環境が厳しい。九州急行バスはコロナの影響前の2018年度に週末(金土日祝)には59往復を運行していた。同年度の利用者数は約89万8000人。コロナ禍で2021年度は約31万7000人にまで落ち込んだ。足元の4~6月は2018年度の半分程度に戻っている。

2022年の7月15日から週末は1往復増便して38往復になった。博多BT発は22時34分、天神BT発は22時50分で長崎駅前着が25時04分と、福岡市内にこれまでより1時間長く滞在できる。

値上げ後もなお割安

乗客数が回復傾向でも運賃にはコロナ禍の影響が波及。九州急行バスは8月1日に値上げを予定する。博多・天神―長崎駅前間の片道運賃を2620円から2900円に改定、10.7%の値上げとなる。もとは2002年に2900円から2500円に値下げ、そこから2回の消費増税に伴って小幅な値上げをしてきた経緯があるため、20年以上前の水準に戻った格好だ。往復運賃は5400円。「コロナ禍で2年連続の赤字となった影響が大きく運賃改定に手を付けざるをえない」(吉田本部長)という。

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一方、西九州新幹線は通常の片道指定席なら6050円、ネットで購入できる「かもめネット早特3」が3600円、「かもめネットきっぷ」が4200円なので、値上げ後でもバスに値頃感がある。

高速バスは渋滞などで時間が読めない反面、運賃の安さが支持されてきた。需要に応じて便数を増やしやすいといった運用上の柔軟性もバスならではの強み。新幹線開業によって長崎の観光名所やグルメなどのメディア露出が増え、全国的に注目度が高まることは間違いない。まずは、新幹線効果をうまく取り込みつつ、県外の観光客にも「九州号」の存在を知ってもらうことが成功のカギとなりそうだ。

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橋村 季真 東洋経済 記者

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はしむら きしん / Kishin Hashimura

三重県生まれ。大阪大学文学部卒。経済紙のデジタル部門の記者として、霞が関や永田町から政治・経済ニュースを速報。2018年8月から現職。現地取材にこだわり、全国の交通事業者の取り組みを紹介することに力を入れている。

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