アベノミクスで終わるものと復活を急ぐべきもの 金融市場に特別な足跡を残した安倍元首相

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岸田政権は今後、アベノミクスについてどのように総括していくのか(写真:Bllomberg)

7月8日、安倍元首相が選挙演説中に銃殺されるという日本史に残る悲惨な事件が起きてしまった。多くの市場参加者が感じているとおり、2012年12月に発足した第2次安倍政権と金融市場の距離感は歴代政権と比較しても特別なものがあった。

憲政史上最長の政権を築いた第2次安倍政権は内政、外交、さまざまな分野で足跡を残しているが、経済・金融分野にも歴史を記したことは間違いない。金融市場とは特にゆかりのない市井の人々であっても同氏の標榜する経済政策「アベノミクス」は耳にしたことがあるはずだ。その後、スガノミクス、キシダノミクスなど類似表現を作ってみたものの定着しなかったことからもその存在感の大きさは異質である。

現在も注目を浴びる日本銀行の黒田体制もアベノミクスの産物であることは周知の事実である。このままいけば黒田日銀総裁も史上初めて2期(10年)満了を果たす日銀総裁となる。

リフレ政策はすでに終焉に向かっている

ただし、安倍元首相の訃報とリフレ政策の清算を結びつけるのは短絡的で誤りだと思う。悲報に接しリフレ政策の総括や今後の展望について筆者は所感を求められる機会が増えたのだが、円安・物価高に不満が高まっている今日では、「リフレ政策は実質的にもう終わっている」というのが正しい現状認識であろう。もう半分過去のものになりつつあったと言ってよい。

前月、筆者は『黒田総裁発言の騒動が示した「リフレ派の終わり」』と題した寄稿を行っている。そこでも論じたが、物価上昇を「原因」、景気回復を「結果」とするリフレ政策は、物価上昇が実現していなかった状況でこそ支持されていた。実際に物価上昇が実現してしまった今、その動きを「国民による値上げ容認」と表現した日銀総裁の発言が大炎上し、参議院選挙直前には物価上昇を理由に政権支持率が低下していた。

現行のイールドカーブコントロール(YCC)という枠組みが金融政策の方向転換を難しくしており、それを見透かした円売りが24年ぶりの円安・ドル高に寄与している。今後、物価上昇を理由に政権支持率がより顕著に低下してくれば、岸田政権は何らかの手を打たねばならなくなる。

高止まりした資源価格を修正することはできないが、円安抑制を図ることで世論のガス抜きを多少図ろう、日銀をスケープゴートにすることで「物価高対策を打った」という体裁を取ろうとするのは元々考えられていたシナリオである。安倍元首相の訃報により岸田政権がアベノミクスとの訣別を言いにくくなったと観測する向きもあるが、物価高への不満は放置できないのではないか。

あと半年もすればポスト黒田に向けた動きは本格的に騒がしくなるが、次期日銀総裁はリフレ政策と距離を置く人物になるという市場予想のとおりになるのではないか。

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