「平和的に台湾を飲み込む」中国の戦略が怖い訳 嫌がらせを重ねた先の「戦意喪失」が真の狙いだ

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いま中国は、ロシアによるウクライナ侵攻を、固唾をのんで見守っているでしょう。ロシアによる開戦当初のキーウ電撃攻撃は無残に失敗し、戦闘は長引いています。中国も、もし台湾を攻撃する場合、台北に電撃攻撃を仕掛けるシナリオがあるはずです。それがうまくいかないかもしれない。中国軍の首脳は、作戦計画の見直しを迫られているはずです。

と同時に、中国は世界各国が、どれだけ真剣にロシアに対する経済制裁を科しているかも注視しているはずです。台湾を攻撃した場合、中国にとってどれだけ経済的な打撃を受けることになるか、それでも攻撃をするのか。そんな得失も計算していることでしょう。

『ウォール・ストリート・ジャーナル』日本版は2022年5月19日、「中国共産党の中央組織部が、中国政府の閣僚レベルの幹部の配偶者や子どもに対し、海外の企業の株式や外国不動産の保有を禁じた」と報道しています。「ウクライナ侵攻をめぐってロシアが西側諸国から制裁を科されていることを踏まえ、幹部がそうした制裁の対象となることを避けたいと考えているためという」。

中国がさまざまな対策を取り始めていることがうかがえます。こんな報道を見ると、中国が将来のリスクに備えていることがわかります。ということは、中国は本当に台湾を攻撃する準備をしているのでしょうか。

離れられない隣人との付き合い方

繰り返しになりますが、中国では「戦わずして勝つ」という「孫子の兵法」の言葉があります。中国は、台湾包囲網を形成し、台湾にさまざまな嫌がらせをすることで、台湾の中で「中国とは仲良くなったほうがいい」と主張する国民党が支持を伸ばして政権を掌握することを狙っています。

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そう考えると、台湾への武力行使の可能性は低くなりますが、本当のところはわかりません。習近平国家主席が実績作りのために武力に手を出す可能性は残されています。独裁者が暴走すると、誰も止められない。私たちは今回、ロシアの行動で、これが事実であることを知りました。

戦争の脅威を払拭するには、相手の国が民主化されることが一番です。しかし、はたして、中国に民主化の日は来るのか。

もちろん、いつかは来るかもしれません。でも、それまでの間でも、私たちは隣人としてつきあっていかなければなりません。そのためには、どうすればいいのか。

「彼を知り、己を知れば、百戦殆(あやう)からず」

これも「孫子の兵法」です。まずは、中国を知ることから始めましょう。

池上 彰 ジャーナリスト

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いけがみ あきら / Akira Ikegami

1950年、長野県生まれ。1973年慶應義塾大学卒業後NHK入局。ロッキード事件、日航ジャンボ機墜落事故など取材経験を重ね、後にキャスターも担当。1994~2005年「週刊こどもニュース」でお父さん役を務めた。2005年より、フリージャーナリストとして多方面で活躍中。東京工業大学リベラルアーツセンター教授を経て、現在、東京工業大学特命教授。名城大学教授。2013年、第5回伊丹十三賞受賞。2016年、第64回菊池寛賞受賞(テレビ東京選挙特番チームと共同受賞)。著書に『伝える力』 (PHPビジネス新書)、『おとなの教養』(NHK出版新書)、『そうだったのか!現代史』(集英社文庫)、『世界を動かす巨人たち〈政治家編〉』(集英社新書)など。

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