ゴールドマン・サックスが進める調査部門「汎アジア化」改革の実態--堀江伸・投資調査部門統括

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ゴールドマン・サックスが進める調査部門「汎アジア化」改革の実態--堀江伸・投資調査部門統括

世界の証券会社の中で最高の収益力とグローバルネットワークを誇るゴールドマン・サックス。同社は今、世界で最も成長力のあるアジアでのビジネス拡大に注力しており、調査(リサーチ)部門においても近年、日本を含めて陣容強化とともに「汎アジア化」の取り組みを進めている。調査部門をどのように改革しているのか、日本と韓国の調査部門を統括している堀江伸・投資調査部門統括に聞いた。

--日本において近年、調査部門をどう改革してきたのか。

日本の証券会社におけるリサーチのスタイルは世界から見ると「ガラパゴス化」してきている。世界では人の世代交代が進み、産業分析だけではなく、新しい投資アイデアやレーティングなど「投資」に傾斜したジョブファンクション(業務の機能)に変わっている。ところが、日本だけは人の世代交代が進まない中で、いまだに「インダストリー・コンサルタント」のようなご意見番的なアナリストが多い。投資には興味がない、レーティングも過去3年ぐらい変えていないといった人も見受けられる。雑誌の人気ランキングで上位にいればそれでいいといった風潮さえある。

■リサーチの汎アジア化を推進。あえて「混ぜる」ことで均質化と人事交流深める

われわれはグローバルなリサーチの価値というものを4~5年前に再考し、投資家に信頼されて役に立つリサーチを継続的に提供することがいちばんの存在意義であり、コメンテーターや評論家であってはならないと位置づけて、この考え方に沿った対応をしてきている。新しい世代を育てつつ、新しい施策を行って、やり方を大幅に変えてきた。そうすると、アジアや欧米とカルチャーやクオリティが同じになって、いろいろなことがグローバルベースでやりやすくなる。アジア(AEJ=日本を除くアジア)と日本で別々だった評価システムやリポーティングライン(報告先)も統合した。

私自身、日本だけでなく韓国の調査部(アナリストは約10人)も管轄している。私の上司のようにAEJで日本を間接的に見ているケースもある。投資のレーティングを変更する投資決定委員会のような重要なディシジョンも、従来は国ごとにバラバラでやっていたが、今では英語で統一して一緒にやるようになった。

当社の場合、もともと比較的そうした素地があったから比較的スムーズにできたわけで、ガラパゴス化したままですぐに変えようとしても無理だろう。

結果的に、韓国や香港で評価されたアナリストを日本に連れてきて、日本以外を含めた汎アジアの業界分析をすることが増えている。たとえば鉄鋼のアナリストも、もともと韓国にいたアナリストを日本に持ってきて日韓両方の市場を担当されている。香港で銀行を担当していたアナリストは韓国に移し、香港、韓国両方の銀行を担当している。あえて「混ぜる」ことによって、目先の効率は必ずしもよくなくても、人事交流が進み、コミュニケーションもよくなる。

--どこまで汎アジアを進めていくのか。

欧州ではかつて、国ごとにリサーチがあった。それをユーロ統合とともに、業界ごとに汎ヨーロッパでやるようになった。アジアの場合は、各国の事情がバラバラで統一通貨もないため、そんな単純な話ではなく、その複雑なマトリックスをどうマネージし最適化できるかだと思う。セクターによっては国別もあろうし、横断的にやったほうがいい場合もあろうし、試行錯誤だろう。

--主要なセクターは現在、どういう状況か。

運輸などは一人のアナリストがヘッドとして香港でアジア全域を見ている。不動産業界も比較的、そうした状況になりつつある。一方で公益産業や通信業界などはローカル色が強く、国別で深くやる必要がある。これまで2~3年、いろいろ試行錯誤してやってきたので、落ち着きどころがわかってきた感じだ。

当社はアジア・パシフィック地域で約1000社をカバーしており、全証券会社で最多。個別株を担当するアナリストは同地域全体で60人程度。日本が約20人で3分の1ぐらいだ。

--アナリストの人数の近年の推移は。

リーマンショック後に人数は減ったが、今はほぼ元に戻った感じだ。今年もまた増やす予定。マーケットの収益性次第で、増やす人数は変わる。

■証券会社の勝負は「アジアの融合」で決まる

--ゴールドマンのアジアの位置づけはどう変化してきているか。

10億ドル以上の時価総額のある会社は、実は米国よりアジアのほうが多い。しかも、今後5~10年を考えてどちらのほうが増えるかといえば、明らかにアジア。欧米も当然重要だが、相対的にアジアの重要性が高まるのは確実で、それは当社としてもグローバルに認識している。日本の機関投資家の間でもアジア株への関心が高まっている。

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