明治政府の中枢、西郷隆盛でも制御不能な男の正体 大久保利通と朝鮮使節派遣での対立に至る背景

✎ 1〜 ✎ 37 ✎ 38 ✎ 39 ✎ 最新
拡大
縮小

西郷は留守政府のトップの座にありながら、地元に振り回されるばかりで、これ以上の悩みの種はなかっただろう。また、久光を後ろ盾にしている鹿児島県士族たちに、西郷が同情的だったことも、苦悩をより深めることとなった。

ストレスからだろう。激しい胸痛にも襲われるなか、西郷は大久保の帰国を待って政界から去ることも考える。

外交上の摩擦が生じれば、不平士族に活躍の場

だが、そんなときに、1つのアイデアが脳裏に浮かんだ。

「私が朝鮮に派遣されることで何か外交上の摩擦が生じれば、不平士族たちに活躍の場を与えられる」

この連載の一覧はこちら

西郷はこれまで関心を示さなかった、朝鮮から国交を拒否されている問題に突破口を見いだす。自分の命を賭しても朝鮮派遣を実現させたいと、西郷は熱望する。

その一方で、大久保もまた覚悟を決めていた。

「何としてでも西郷の朝鮮派遣を止めなければならない」

大久保は渋っていた参議の職に就くことを決意。このときにアメリカに留学中の長男に遺書まで書いている。

命がけの西郷と対峙するには、自身も命をかけなければならない。10月14日、大久保は閣議に参加。西郷の朝鮮派遣を真正面から反対することとなった。

(第39回につづく)

【参考文献】
大久保利通著『大久保利通文書』(マツノ書店)
勝田孫彌『大久保利通伝』(マツノ書店)
西郷隆盛『大西郷全集』(大西郷全集刊行会)
日本史籍協会編『島津久光公実紀』(東京大学出版会)
徳川慶喜『昔夢会筆記―徳川慶喜公回想談』(東洋文庫)
渋沢栄一『徳川慶喜公伝全4巻』(東洋文庫)
勝海舟、江藤淳編、松浦玲編『氷川清話』(講談社学術文庫)
佐々木克監修『大久保利通』(講談社学術文庫)
佐々木克『大久保利通―明治維新と志の政治家(日本史リブレット)』(山川出版社)
毛利敏彦『大久保利通―維新前夜の群像』(中央公論新社)
河合敦『大久保利通 西郷どんを屠った男』(徳間書店)
家近良樹『西郷隆盛 人を相手にせず、天を相手にせよ』(ミネルヴァ書房)
渋沢栄一、守屋淳『現代語訳論語と算盤』(ちくま新書)
安藤優一郎『島津久光の明治維新 西郷隆盛の“敵”であり続けた男の真実』(イースト・プレス)
佐々木克『大久保利通と明治維新』(吉川弘文館)
松尾正人『木戸孝允(幕末維新の個性 8)』(吉川弘文館)
瀧井一博『文明史のなかの明治憲法』(講談社選書メチエ)

真山 知幸 著述家

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

まやま ともゆき / Tomoyuki Mayama

1979年、兵庫県生まれ。2002年、同志社大学法学部法律学科卒業。上京後、業界誌出版社の編集長を経て、2020年独立。偉人や歴史、名言などをテーマに執筆活動を行う。『ざんねんな偉人伝』シリーズ、『偉人名言迷言事典』など著作40冊以上。名古屋外国語大学現代国際学特殊講義(現・グローバルキャリア講義)、宮崎大学公開講座などでの講師活動やメディア出演も行う。最新刊は 『偉人メシ伝』 『あの偉人は、人生の壁をどう乗り越えてきたのか』 『日本史の13人の怖いお母さん』『逃げまくった文豪たち 嫌なことがあったら逃げたらいいよ』(実務教育出版)。「東洋経済オンラインアワード2021」でニューウェーブ賞を受賞。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT