西郷は留守政府のトップの座にありながら、地元に振り回されるばかりで、これ以上の悩みの種はなかっただろう。また、久光を後ろ盾にしている鹿児島県士族たちに、西郷が同情的だったことも、苦悩をより深めることとなった。
ストレスからだろう。激しい胸痛にも襲われるなか、西郷は大久保の帰国を待って政界から去ることも考える。
外交上の摩擦が生じれば、不平士族に活躍の場
だが、そんなときに、1つのアイデアが脳裏に浮かんだ。
「私が朝鮮に派遣されることで何か外交上の摩擦が生じれば、不平士族たちに活躍の場を与えられる」
西郷はこれまで関心を示さなかった、朝鮮から国交を拒否されている問題に突破口を見いだす。自分の命を賭しても朝鮮派遣を実現させたいと、西郷は熱望する。
その一方で、大久保もまた覚悟を決めていた。
「何としてでも西郷の朝鮮派遣を止めなければならない」
大久保は渋っていた参議の職に就くことを決意。このときにアメリカに留学中の長男に遺書まで書いている。
命がけの西郷と対峙するには、自身も命をかけなければならない。10月14日、大久保は閣議に参加。西郷の朝鮮派遣を真正面から反対することとなった。
(第39回につづく)
【参考文献】
大久保利通著『大久保利通文書』(マツノ書店)
勝田孫彌『大久保利通伝』(マツノ書店)
西郷隆盛『大西郷全集』(大西郷全集刊行会)
日本史籍協会編『島津久光公実紀』(東京大学出版会)
徳川慶喜『昔夢会筆記―徳川慶喜公回想談』(東洋文庫)
渋沢栄一『徳川慶喜公伝全4巻』(東洋文庫)
勝海舟、江藤淳編、松浦玲編『氷川清話』(講談社学術文庫)
佐々木克監修『大久保利通』(講談社学術文庫)
佐々木克『大久保利通―明治維新と志の政治家(日本史リブレット)』(山川出版社)
毛利敏彦『大久保利通―維新前夜の群像』(中央公論新社)
河合敦『大久保利通 西郷どんを屠った男』(徳間書店)
家近良樹『西郷隆盛 人を相手にせず、天を相手にせよ』(ミネルヴァ書房)
渋沢栄一、守屋淳『現代語訳論語と算盤』(ちくま新書)
安藤優一郎『島津久光の明治維新 西郷隆盛の“敵”であり続けた男の真実』(イースト・プレス)
佐々木克『大久保利通と明治維新』(吉川弘文館)
松尾正人『木戸孝允(幕末維新の個性 8)』(吉川弘文館)
瀧井一博『文明史のなかの明治憲法』(講談社選書メチエ)
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