「日本の合唱」がコロナ禍で直面した経済的苦境 マスクなしの公演に挑戦した合唱団の取り組み

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村上氏によると、「元どおりの公演形態」に戻れるかの分岐点になる演奏会である。また、合唱界の活性化という期待を込めた演奏会でもあるという。

東京混声合唱団の練習風景。練習ではマスク着用のうえ、定期的に換気を行っているという(筆者撮影)

実は東京混声合唱団のみならず、日本の合唱界には課題が多いという。まず、同じ演奏団体であるオーケストラに比べても、常時活動しているプロ団体の数が圧倒的に少ない。大きな要因として、文化としての認知が進んでいないことから、バックになってくれるようなスポンサーが不足しており、財政状況が厳しいことが挙げられる。

継続的な活動のためには、団員やスタッフ等の人件費をはじめとする一定の事業費がかかる。しかし例えば同団が受けている公的な補助としては、定期演奏会開催における文化庁からの助成金のみ。公演のチケット収入は命綱である。しかし集客にも苦労しているそうだ。

「お客様を待っているだけではダメ」

「オーケストラの文化は厚味を増しており、聴衆も成熟してきた。しかし合唱は聴いてくれる人が年々少なくなっている。われわれの努力不足で、合唱の演奏会を広く宣伝できていないことが原因だ。お客様が来てくれるのを待っているだけではダメ。いろいろなコンサートを仕掛けて、われわれからお客様に近づいていかなければならない」(村上氏)

そうした思いを込めた7月31日の演奏会でまず注目されるのが、新国立劇場合唱団という別の団体とのコラボレーションである点。新国立劇場合唱団は劇場に付属し、同劇場でのオペラのコーラス部隊としての活動を主とする。例えばビゼーの「カルメン」であれば、タバコ工場で働く女性たちや兵隊などを担当する。つまりフランス語やイタリア語、ドイツ語の歌詞を歌っているような歌い手たちだ。現代の曲をはじめ、日本の曲を得意とする東京混声合唱団とは正反対と言ってもよいほど違いがある。

その2つの団体がある曲では個性を競い、ある曲では混じり合って演奏するのが今回の演奏会の最大の面白味だ。指揮者も新国立劇場合唱団・首席合唱指揮者の三澤洋史氏、東京混声合唱団常任指揮者のキハラ良尚氏の2人が登場する。今回キハラ氏に見所を聞いた。

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