合唱をやる人にとって、歌は自分の気持ちの表現でもある。それを白い目で見る雰囲気もあり、つらい気持ちを抱える人も多かっただろう。合唱をやっている人の家族から「親に参加してほしくないから大会を中止してくれ」という苦情が連盟に来たこともあったそうだ。
また練習ができなくなったことも大きな痛手だった。アマチュアの合唱団の練習は大抵、自治体の文化施設や公民館などで行う。しかしコロナ禍の初期は合唱団に対しては貸し出さない施設が大半を占めていたのだ。
合唱に適した「歌えるマスク」を開発
そんな中、行く手を照らす存在としていち早く活動を再開したのが東京混声合唱団だ。ハミングだけの曲を作曲しYouTubeで配信するなど、全国の合唱ファンに希望を届けた。2020年7月31日には先陣を切って演奏会を開催。ユニークなのが、合唱に適したマスク「歌えるマスク」を自ら開発したことだ。顔から胸元までを覆う形状で息がこもらないため息苦しくなく、歌ってもずれない画期的なマスクである。
同団の活動は国内の合唱団に勇気を与え、マスクはこれまでに約5万枚売れている。
マスクの販売状況について東京混声合唱団参与の村上満志氏は次のように説明する。
「一時期は月に何千枚と出ていた。1月ぐらいから需要が下火になったことから、ある程度行き渡ったのだと考えている。4月にまた増えてきたが、これは新学期に合唱を始める学生の需要と捉えている」(東京混声合唱団の村上氏)
また同団の公演についても、一定の制限のもとではあるがほとんど影響を受けることなく開催してきている。
そうした東京混声合唱団の活動が励みになったほか、全日本合唱連盟が策定したガイドラインの認知も広がり、現在はマスクをしての練習や演奏会を再開できるようになっている。
なおガイドラインの定めでは、練習、演奏会ともに前後に2m、左右に1mの距離をとればマスクを着用しなくてもよい。これに準拠し、マスクを外してもOKとする公共施設も出始めたようだ。しかし屋内で人が集まっての活動であり、感染に対する個々の感受性の差も勘案しなければならないから、マスク着用の壁を完全に取り払うのにはまだ時間がかかるだろう。
こうした問題に関しても、混声合唱団は果敢な取り組みを開始している。すなわち、マスクからの歌声の解放だ。
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